日本における自殺者の数は9年連続で減少傾向(平成30年時点)にありますが、それでも毎年2万人以上の方が自らその命を絶っています。
その原因の1つとして、ストレスの存在があげられています。
この事態を重くみた厚生労働省では、2015年の12月1日から事業者に対し、労働者のストレスチェックを実施するように義務付けています。
では厚生労働省のストレスチェックとはどのようなものなのでしょう。
厚生労働省のストレスチェックとは
それでは早速ですが、厚生労働省のストレスチェックについて見ていきたいと思います。
ストレスチェックとはどのような検査で、どんな意義があるのでしょうか。
ストレス状態を調べる検査
ストレスチェックはその名の通り、ストレス状態を調べるための検査です。
主に事業所に所属している労働者のストレス状態を把握するためにおこなわれています。
ストレスチェックの意義
ストレスチェックの意義は大きく分けて2つあります。
1つは事業所に所属している労働者のストレス状態を把握することです。
昨今の日本では長時間労働やストレス化社会が問題視されています。
英語にも「Karoshi(過労死)」という単語ができるほど、長時間労働による弊害が世界的に注目されています。
そのため日本では政府が旗振り役になって「働き方改革」を推進していますが、いまだに取り組みが十分と言える状況には至っていません。
そのため、厚生労働省によるストレスチェックをおこなうことで、労働者に対して「ストレス状態への気づき」を促し、メンタルケアが必要な場合は産業医や医師の診察を受けるように指導します。
ストレスチェックのもう1つの意義は、労働者が何にストレスを感じているのかを把握することで、労働環境の改善を図るということです。
労働者はストレスチェックを受ける義務があるのか
ストレスチェックは、労働者が50人以上いる事業所の事業者に対し、労働者に対するストレスチェックをおこなうよう義務付けているものです。
労働者自身にストレスチェックを受ける義務があるわけではありません。
厚生労働省のストレスチェックの実施細則
厚生労働省のストレスチェックの概要について簡単に知って頂いたところで、次にストレスチェックの実施細則について解説したいと思います。
事業規模
厚生労働省のストレスチェックは、所属している労働者の数が50人以上の事業所に対して義務付けられています。
事業者は1年に1回、所属している「すべての」労働者に対して、ストレスチェックをおこなう義務があります。
派遣社員の場合
例えば事業所に所属している労働者が60人いて、そのうちの20人が派遣元へ派遣されている場合、事業所には40人しかいないので、ストレスチェックの義務はなくなるのでしょうか。答えは「ノー」です。
ストレスチェックは事業所と雇用契約を結んでいる労働省を対象におこなわれるものなので、仮に40人派遣していようが、50人派遣していようが、事業所がストレスチェックをおこなわなければなりません。
では派遣先の労働者が40人だった場合はどうなるのでしょう。
この場合、事業所から20人派遣されて合計が60人となるため、正規の雇用契約者が40人しかいなくても、その40人に対するストレスチェックの義務が生じます。
派遣されてきた20人に関しては、派遣先に対するストレスチェックの義務が生じませんが、ストレスチェックの意義が労働環境の改善であることに鑑みれば、やはり派遣されてきた20人にもストレスチェックを実施した方が良いとされています。
厚生労働省のストレスチェックの実施状況
厚生労働省のストレスチェックは、事業所に所属する雇用契約者が50人以上の場合に義務付けられていますが、実際の実施状況はどうなっているのでしょうか。
事業所
ストレスチェックをおこなう義務のある事業所に関してみると、82.9%の事業所がストレスチェックをおこなっているということです。この制度が2015年の12月から始まったことを考えると、まずまずの実施率と言えるかもしれません。
労働者
ストレスチェックをおこなう義務のある事業所に所属している雇用契約者に関してみると、78.0%の人がストレスチェックを受けているということです。
医師による面接指導
実際にストレスチェックを受けて、産業医や医師による診察を受けた人は0.6%にとどまっています。
ストレス化社会と言われる現代で、高ストレスを訴えている人が全体の0.6%というのはなかなか考えにくいのではないでしょうか。
厚生労働省のストレスチェックの課題
厚生労働省のストレスチェックは現在のところまずまずの実施率と言えますが、それでもまだまだ課題が残されています。
残されている課題としては、職場の環境改善と、医師との連携があげられます。
職場の環境改善
ストレスチェックをおこなった事業所のうち、78%の事業所で結果の集団分析をおこなっています。
この数字だけ見るとなかなか優秀なのですが、その分析が必ずしも職場にフィードバックされていないのが現状です。
厚生労働省によって義務付けられているから、とりあえずストレスチェックを実施するものの、結果を資料として保管するだけで、なかなか職場環境の改善にはつながっていません。
その要因として、
「職場環境を改善するための時間がとれない」
「忙しくて職場環境の改善に人員を割けない」
「何をどう改善していいのか分からない」
などといったことがあげられています。
医師との連携
ストレスチェックの課題点としては、医師との連携もあげられています。
ストレスチェック自体の実施率はそれなりに高いのですが、実際にストレスチェックを受けて、産業医や医師の診察を受けた人は全体の0.6%に過ぎません。
ある調査によると、高ストレス状態にある人が1年後に1ヶ月以上の休養を余儀なくされるリスクは、ストレス状態にない人に比べ男性でおよそ6.5倍、女性でおよそ2.8倍とされています。
長時間労働やストレス化社会が問題視されて長いですが、高ストレス状態にある人が0.6%しかいないとは考えにくく、高ストレス状態にある人へのフォローが十分とは言えないのが現状です。
高ストレス状態にある労働者が医師の診察を受けない背景には、「高ストレス状態にあると認定されると、仕事を休まなければならないのではないか」といった労働者側の不安があります。
またストレスチェック自体に関しても、「自分が高ストレス状態にあると認定された場合、給与査定などに影響するのではないか」との不安から、労働者が正直に答えていないケースも見られます。
まとめ
厚生労働省のストレスチェックは、労働者のメンタルヘルスをケアする上でとても重要です。
多くの事業所ではストレスチェックを実施しており、厚生労働省の当初の目的は、一応は果たされていることとなっています。
ただ日本の労働者は立場が弱いこともあり、正直に声を上げられないケースが多々あります。
その結果、無理をして体調を壊したり、最悪の場合、自らの命を断ったりするケースが増えています。
ストレスチェックの今後の課題として、事業主側と労働者側の風通しを良くした上で、ストレスはあって当たり前のものという認識に立ち、労働者が不調を訴える前に、医師の診察を受けさせることがあげられます。
ストレス解消方法に関しては下記のページで詳しく解説しています。