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積算評価と収益還元評価|銀行は不動産をどう評価するか

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積算評価と収益還元評価

銀行に融資を相談すると、物件の評価額が話題になります。同じ物件でも、「積算評価」では低く、「収益還元評価」では高く出る、あるいはその逆になることがあります。評価額は、借りられる金額と、自己資金の額に直結します。この記事では、2つの評価方法の仕組みを、仮の物件で同じ条件のまま計算して比べ、金融機関がどのように使い分けているか、物件選びにどう活かすかを整理します。

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積み上がる木のブロックと成長を表すグラフ

銀行は物件を何のために評価するのか

金融機関が不動産の評価額を見る目的は、大きく2つあります。

  • 担保としての価値:返済が滞ったときに、物件を処分して、貸したお金を回収できるか。
  • 返済の原資としての力:物件が生む家賃収入で、返済を続けていけるか。

前者に対応するのが積算評価、後者に対応するのが収益還元評価です。どちらをどの程度重視するかは、金融機関の方針や、借り手の属性、物件の種類によって異なります。そのため、同じ物件でも、融資の条件が金融機関ごとに違うことがあります。

積算評価と収益還元評価の違い

項目 積算評価 収益還元評価
考え方 土地と建物の価値を積み上げる 物件が生む収益から、価値を逆算する
土地の算出 路線価などをもとに、面積を掛けて算出 ―
建物の算出 再調達価格(今建てたらいくらか)から、経年による減価を差し引く ―
収益の扱い 原則として使わない 年間の純収益(NOI)を還元利回りで割る
重視する点 万一のとき、処分して回収できる額 家賃収入で返済できるか
有利になりやすい物件 築浅の物件、土地の評価が高い物件 収益性が高く、入居が安定している物件
不利になりやすい物件 築古の物件、土地が小さい物件 空室が多い物件、家賃が相場より高い物件

積算評価は「売却したらいくらになるか」を、収益還元評価は「稼ぐ力から見た価値」を表す、と考えると整理しやすくなります。

積算評価のしくみ:土地と建物を別々に評価する

土地の評価

土地は、路線価、公示地価、固定資産税評価額などをもとに評価されます。公的な土地の価格には、目的や水準の異なる複数の種類があるため、金融機関がどの価格を基準にしているかを確認することが大切です。

種類 公表する機関 特徴
地価公示 国土交通省(土地鑑定委員会) 毎年1月1日時点の標準的な価格を公表する
相続税路線価 国税庁 地価公示価格などの8割程度を目途に定める。毎年1月1日が評価時点
固定資産税評価額 市町村(東京23区は都) 地価公示価格などの7割程度を目途に評価する。3年ごとに評価替え
実勢価格(取引価格) 市場 実際の売買で成立する価格。国土交通省の不動産情報ライブラリなどで確認できる

路線価は、道路に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額で、路線価図では千円単位で表示されます。評価するときは、路線価に奥行価格補正率などの補正を掛け、土地の面積を乗じます。たとえば、正面路線価が300千円、補正率が1.00、面積が200平方メートルの場合は、300千円×1.00×200㎡=6,000万円です(国税庁のタックスアンサー No.4602の計算方法に沿った仮の例)。

路線価が地価公示価格の8割程度を目途としていることから、実勢に近い額を知りたい場合は、金融機関が路線価を割り戻して使うこともあります。ただし、割り戻し方は金融機関によって異なり、公表されていません。評価の方法は、事前に確認します。

建物の評価

建物は、同じ建物を今の相場で建てた場合の価格(再調達価格)から、築年数に応じて価値の減少を差し引いて評価するのが一般的です。式で表すと、次のとおりです。

  • 建物の積算価格 = 再調達価格 ×(残存耐用年数 ÷ 法定耐用年数)
  • 残存耐用年数 = 法定耐用年数 − 築年数
  • 再調達価格 = 延べ床面積 × 構造ごとの単価(金融機関ごとに設定)

法定耐用年数は、住宅用の場合、木造が22年、鉄筋コンクリート造が47年、金属造が19〜34年です(骨格材の肉厚による)。築年数が法定耐用年数を超えると、建物の評価がほとんどつかない金融機関もあります。再調達価格の単価や、残存年数の取り方は、金融機関によって異なります。

土地の形や道路との関係でも、評価は変わる

路線価に掛ける補正率は、奥行価格補正率のほかにもあります。間口が狭い、奥行が長い、形がいびつ、道路に接している面が複数ある、といった土地の条件で、評価が上がったり下がったりします。金融機関も、地図や現地の状況から、接道の状況や形状を確認することが一般的です。道路に十分に接していない土地や、建て替えに制約がある土地は、担保としての評価が低くなることがあります。購入前に、接道の状況と、建て替えが可能かどうかを、重要事項説明書などで確認します。

積算評価の計算例

次の仮の物件で、積算評価を計算します。

項目 内容(仮の例)
土地 路線価300千円、面積200㎡、補正率1.00
建物 鉄筋コンクリート造、延べ床面積300㎡、築20年
再調達価格の単価 1㎡あたり20万円(仮の単価)
法定耐用年数 47年(住宅用の鉄筋コンクリート造)
年間の営業純収益(NOI) 600万円
購入価格 1億2,000万円
計算 式 金額
土地の評価 300千円×200㎡ 6,000万円
建物の再調達価格 300㎡×20万円 6,000万円
建物の評価 6,000万円×(47−20)÷47 約3,447万円
積算評価 土地+建物 約9,447万円

積算評価は約9,447万円で、購入価格1億2,000万円の約79%です。築年数が進むと、建物の評価が下がり、積算評価も下がります。同じ物件で、築年数だけを変えた場合を見てみます。

築年数 残存耐用年数 建物の評価 積算評価(土地+建物)
築0年 47年 約6,000万円 約12,000万円
築10年 37年 約4,723万円 約10,723万円
築20年 27年 約3,447万円 約9,447万円
築30年 17年 約2,170万円 約8,170万円
築40年 7年 約894万円 約6,894万円
築47年 0年 約0万円 約6,000万円

築47年を超えると、建物の評価はゼロとなり、土地の評価だけが残ります。築古の物件では、積算評価が土地の価値に近づくため、土地の評価が高いエリアか、小さいエリアかが、融資額の差になります。

木造の場合は、建物の評価がもっと早く下がる

同じ延べ床面積300㎡でも、木造は法定耐用年数が22年と短く、再調達価格の単価も構造によって異なります。仮に、木造の再調達価格を1㎡あたり15万円(4,500万円)とし、土地の評価は同じ6,000万円として、築年数ごとに計算します。

築年数 残存耐用年数 建物の評価 積算評価(土地+建物)
築0年 22年 約4,500万円 約10,500万円
築5年 17年 約3,477万円 約9,477万円
築10年 12年 約2,455万円 約8,455万円
築15年 7年 約1,432万円 約7,432万円
築20年 2年 約409万円 約6,409万円
築22年 0年 約0万円 約6,000万円

木造は、築22年で建物の評価がゼロになります。築古の木造は、積算評価の大部分が土地の評価になるため、土地の評価が低いエリアでは、融資額が大きく伸びないことがあります。一方で、構造や築年数だけでなく、金融機関ごとの運用(耐用年数を超えた建物の扱い、再調達価格の単価など)でも変わるため、複数の金融機関への確認が必要です。

収益還元評価のしくみ

収益還元評価は、物件が将来生み出す収益から、価値を求める方法です。国土交通省の不動産鑑定評価基準でも、収益還元法として整理されており、直接還元法とDCF法があります。融資の評価では、計算が簡単な直接還元法が使われることが多く、式は次のとおりです。

  • 収益価格 = 年間の純収益(NOI) ÷ 還元利回り
  • NOI = 年間の家賃収入 − 空室損失 − 運営経費(固定資産税、管理費、修繕費など。ローンの返済は含まない)

還元利回り(キャップレート)は、エリア、物件の種類、築年数、市場の環境などをもとに、金融機関や鑑定士が設定します。同じNOIでも、還元利回りが低いほど評価額は高く、高いほど低くなります。

収益還元評価の計算例と、数字の感度

先の物件で、NOIが600万円、還元利回りが6%の場合、収益価格は600万円÷0.06=10,000万円です。積算評価の約9,447万円より高く、購入価格1億2,000万円の約83%です。

収益還元評価は、還元利回りとNOIの設定で大きく変わります。まず、NOIを600万円に固定して、還元利回りだけを変えた場合です。

還元利回り 収益価格 購入価格に対する割合
5.0% 12,000万円 100%
5.5% 10,909万円 91%
6.0% 10,000万円 83%
6.5% 9,231万円 77%
7.0% 8,571万円 71%

還元利回りが0.5ポイント違うだけで、評価額は約770万〜910万円動きます。次に、還元利回りを6%に固定して、NOIだけを変えた場合です。

NOI 収益価格 購入価格に対する割合
500万円 8,333万円 4.2%
550万円 9,167万円 4.6%
600万円 10,000万円 5.0%
650万円 10,833万円 5.4%

NOIが50万円増減すると、収益価格は約833万円動きます。NOIは、空室損失や運営経費の見積もりで変わるため、金融機関がNOIをどう見積もるか(現在の家賃か、相場の家賃か、経費率をいくらにするか)も、評価額に影響します。

還元利回りや再調達価格の単価は、金融機関によって異なり、公表されていないことが多い数字です。本記事の数字は仮の例で、実際の金融機関の評価とは異なります。融資の相談では、どの方法で、どの数字を使って評価したかを確認してください。

NOIの見積もりが評価額を左右する

売主や不動産会社の資料に書かれたNOIと、金融機関が見積もるNOIは、一致しないことがあります。金融機関は、現在の家賃が相場より高ければ相場に直し、空室率や経費率を、保守的に置く場合があります。仮の例で比べます。満室時の年間家賃は800万円です。

項目 資料上の見積もり 金融機関の保守的な見積もり(仮の例)
家賃 満室時800万円 相場に合わせて5%低く見積もる(760万円)
空室損失 5% 10%
実効収入 760万円 684万円
運営経費 実効収入の20% 実効収入の25%(171万円)
NOI 約608万円 約513万円
収益価格(還元利回り6%) 約10,133万円 約8,550万円

この仮の例では、資料上のNOIから求めた収益価格と、保守的に見積もったNOIから求めた収益価格の差は、約1,583万円です。購入前の検討では、売主側の資料のNOIだけでなく、空室や経費を厳しく見た数字でも、評価額と収支が成り立つかを確認します。

同じ物件でも評価が分かれる:融資額への影響

先の物件(購入価格1億2,000万円)で、金融機関が評価額の100%まで貸すと仮定した、極端な単純化の例で、融資額と自己資金を比べます(実際は、評価額に掛目を掛ける、属性や返済能力で上限が決まるなど、金融機関ごとの運用があります)。

評価の考え方 評価額 融資額(評価額まで) 購入価格との差額(自己資金などで補う額)
積算評価を重視 約9,447万円 約9,447万円 約2,553万円
収益還元評価を重視 約10,000万円 約10,000万円 約2,000万円
両方のうち低いほう 約9,447万円 約9,447万円 約2,553万円

評価額が購入価格に届かない場合、差額は自己資金で補う必要があります。さらに、購入時の諸費用も別途かかります。同じ物件でも、どの評価を重視する金融機関に相談するかで、必要な自己資金が変わります。

評価が分かれる主な原因

  • 築年数:築古なら、積算評価が下がるが、収益還元評価は家賃が維持されていれば下がりにくい。
  • 土地の大きさ:土地が広いと、積算評価が高く出やすい。
  • 家賃の水準:相場より高い家賃だと、収益還元評価が実態より高く出る。金融機関は相場の家賃で見直すことがある。
  • 空室の状況:空室が多いと、NOIが小さくなり、収益還元評価が下がる。
  • 還元利回りの設定:エリアや物件の種類による金融機関の設定で、数百万円〜数千万円変わる。

不動産鑑定評価の3手法と、銀行の評価の位置づけ

不動産鑑定士が行う鑑定評価では、国土交通省の不動産鑑定評価基準に基づき、価格を求める基本的な手法として、原価法、取引事例比較法、収益還元法の3つが示されています。原則として、これらを併用して、得られた試算価格を調整して鑑定評価額を決めます。

鑑定評価の手法 考え方 融資での近い評価
原価法 再調達原価に着目し、経過年数に応じた減価を考えて価格を求める 積算評価
取引事例比較法 類似の不動産の取引事例価格と比較して価格を求める 周辺の取引価格との比較(相場)
収益還元法(直接還元法・DCF法) 将来の収益を現在の価値に換算して価格を求める 収益還元評価

金融機関が行う評価は、鑑定評価そのものではなく、融資の審査のために簡略化した内部の評価であることが多いと考えられます。そのため、鑑定評価の考え方と近くても、数字は一致しません。公的な地価の確認先として、国土交通省の地価公示があります。

出口でも、買い手の融資評価が価格に影響する

評価の方法は、購入するときだけでなく、売却するときにも関係します。次に物件を買う人も、金融機関から融資を受けて購入することが多く、その人の借りられる額は、積算評価と収益還元評価で決まります。買い手が融資を受けにくい物件は、売却価格が下がるか、売却に時間がかかる可能性があります。

出口の場面 評価の影響 購入前にできる準備
築年数が進んで売却する 建物の積算評価が小さくなり、買い手の融資額が伸びにくい 土地の評価が高い物件か、築年数の進んだ時点でも収益が維持できる物件かを見る
金利が上がった環境で売却する 買い手の返済負担が増え、還元利回りが上がると収益価格が下がる 出口の還元利回りを、購入時より高めに置いて試算する
空室が多い状態で売却する NOIが小さく見え、収益価格が下がる 入居率を保ち、賃料や契約の記録を整えておく
家賃が相場より高いまま売却する 金融機関が相場家賃で見直し、評価が下がる 家賃の水準が相場から離れていないかを定期的に確認する

出口の考え方は、別の記事の「出口キャップレート」でも整理しています。購入のときから、売るときに買い手がどう評価するかを想像して、物件を選ぶと、出口で困る可能性を減らせます。

評価方法を物件選びに活かす手順

  1. 土地の路線価や、周辺の取引価格を調べ、土地の評価の水準をつかむ
  2. 建物の構造、築年数から、残存耐用年数と積算評価を概算する
  3. NOIを、現在の家賃ではなく、相場の家賃と余裕を持った経費率で見積もる
  4. 還元利回りを、複数のケース(例:5.5%、6%、6.5%)で置いて、収益価格の幅を求める
  5. 積算評価と収益価格の両方を、購入価格と比べる
  6. 複数の金融機関に物件資料を示し、評価の方法と評価額を聞く

特に、評価額が購入価格に届かない物件は、自己資金が増えるか、融資が出ないことがあります。購入の申し込みの前に、金融機関の感触を確認しておくと、無駄な手間を減らせます。評価額は融資額だけでなく、金利や融資期間の条件に影響することもあります。

よくある質問

Q. 積算評価が低くても、融資は受けられますか。

A. 収益還元評価を重視する金融機関では、積算評価が低くても、収益力が認められれば融資が出ることがあります。一方、積算評価を重視する金融機関では、融資額が伸びにくくなります。物件に合う金融機関を選ぶことが大切です。

Q. 自分で評価額を計算できますか。

A. 概算はできます。路線価は国税庁の路線価図で確認できます。ただし、再調達価格の単価や還元利回りは金融機関ごとに異なるため、正確な評価は、金融機関や不動産会社に確認してください。

Q. 路線価と公示価格はどちらを使えばよいですか。

A. 目的によります。路線価は相続税の評価のための価格で、地価公示価格の8割程度を目途としています。実勢に近い水準を知りたいときは、公示価格や、実際の取引価格も合わせて確認します。

Q. 築古の物件は、融資を受けにくいのですか。

A. 積算評価で建物の価値が小さくなるため、融資額が伸びにくい傾向があります。ただし、土地の評価が高い場合や、収益力が高い場合は、融資が出ることもあります。法定耐用年数と融資期間の関係は、金融機関の運用によって異なります。

Q. 評価額は購入価格より高いほうがよいですか。

A. 評価額が購入価格を上回るほど、融資が出やすくなる傾向はあります。しかし、評価額が高くても、収支が悪ければ、投資としては成り立ちません。評価額と、実際の収益の両方で確認してください。

まとめ

  • 銀行は、担保としての価値(積算評価)と、返済の原資としての力(収益還元評価)の2つの視点で物件を見る。
  • 積算評価は、土地(路線価など)と建物(再調達価格から経年で減価)を積み上げる。築年数が進むほど、土地の評価が中心になる。
  • 収益還元評価は、NOIを還元利回りで割って求める。還元利回りが0.5ポイント違うと、評価額は大きく動く。
  • 仮の例では、同じ物件でも、積算評価は約9,447万円、収益価格は1億円で、評価の考え方によって必要な自己資金が変わった。
  • 物件選びでは、積算評価と収益価格の両方を概算し、複数の金融機関で評価の方法と評価額を確認する。

評価の方法や数値は、金融機関によって異なります。個別の判断は、金融機関や不動産鑑定士、税理士などの専門家に確認してください。

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※本記事は一般的な情報の提供を目的としたものであり、特定の投資・融資・税務上の判断を勧めるものではありません。制度や数値は記事作成時点の一般的な内容です。個別の判断は、金融機関・税理士などの専門家にご確認ください。

最終更新:2026年10月

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NISAで資産形成を始めたあと、「不動産投資も加えるべきか」「そもそも何が違うのか」と迷う人は少なくありません。どちらも資産を育てる手段ですが、税金の仕組み、借入の使い方、資金の動かしやすさ、失敗したときの傷の深さは大きく異なります。この記事では、NISAの制度を一次情報で確認したうえで、不動産投資と税制優遇・融資活用の両面から比べ、併用するときの考え方まで整理します。

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電卓と紙幣

NISAと不動産投資の基本的な違い

最初に、両者の性格を一覧で比べます。NISAは「税金がかからない口座」であり、不動産投資は「事業として収益物件を運営する」ものです。そもそも土俵が違うため、どちらが優れているかという問いは成り立ちにくく、目的に合わせて役割を分けて考えるのが実務的です。

比較項目 NISA 不動産投資
投資対象 上場株式、投資信託、ETF、J-REITなどの金融商品 賃貸用の土地・建物(区分、戸建、一棟など)
収益の源泉 値上がり益、配当、分配金 家賃収入、売却益
税の扱い 口座内の運用益は非課税 不動産所得として総合課税(経費・減価償却で課税所得を調整できる)
借入の活用 借入を使った運用は一般的ではなく、自己資金が前提 融資を使い、自己資金より大きな資産を運用できる
売りやすさ 市場で売却でき、換金は短期間 買い手探しと契約・決済が必要で、数か月かかることもある
必要な資金 少額から始められる 頭金と諸費用でまとまった資金が必要
手間 少ない(放置もできる) 管理会社への委託をしても、判断・点検・申告の手間がある
損失の扱い 売却損は「なかったもの」とみなされ、他の所得と通算できない 不動産所得の赤字は、一定の例外を除き他の所得と損益通算できる

この表の中で、実務上いちばん影響が大きいのは「借入」と「損失の扱い」です。借入を使えば、同じ自己資金でも動かせる金額が大きくなる一方、価格が下がったときの打撃も大きくなります。損失の扱いは、同じ赤字でも税務上の効果が正反対になります。以降の章で、順番に掘り下げます。

新NISAの仕組み(2026年10月時点)

2024年から恒久化された新しいNISAは、次の枠組みです。金融庁と国税庁の資料で確認できる数字を整理します。

項目 内容
つみたて投資枠 年間120万円。長期の積立・分散投資に適した商品が対象
成長投資枠 年間240万円。上場株式、投資信託など幅広い商品が対象(整理・監理銘柄などは対象外)
併用した場合の年間上限 合計で年間360万円
非課税保有限度額(生涯) 1,800万円。うち成長投資枠は1,200万円まで(内数)
非課税保有期間 無期限
売却後の枠 売却した商品の簿価(取得金額)の分が、翌年以降に再び使える
口座を開設できる人 原則として18歳以上の居住者等(年の1月1日時点)

限度額は、時価ではなく取得金額(簿価)で数えます。そのため、値上がりして時価が1,800万円を超えても、保有を続けることができます。また、枠を再利用できるのは売却した翌年以降で、年間の上限そのものは変わりません。

金融庁の制度説明では、2027年1月から、つみたて投資枠の年齢要件が撤廃され、0〜17歳も口座を開設できるようになる予定が示されています。ただし、制度は改正されることがあります。金融庁 新しいNISA特設ページで最新の内容を確認してください。

NISAの対象商品に、上場しているJ-REIT(不動産投資信託)は含まれる場合があります。ただし、J-REITは「不動産に投資する金融商品」であり、自分で物件を買って運営する不動産投資とは、融資の使い方、税務、手間のいずれも別物です。この記事では、後者の不動産投資との比較を扱います。

税金の違い:非課税口座と不動産所得

NISAは「運用益が非課税」

通常、上場株式等の売却益や配当には、所得税・復興特別所得税・住民税を合わせて約20%の税金がかかります。国税庁のタックスアンサーでは、上場株式等の譲渡所得等の税率は20%(所得税15%、住民税5%)とされ、これに復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)が加わります。計算すると、合計で約20.315%です。NISA口座内の運用益は、この課税がありません。

不動産投資は「総合課税」で、課税所得に応じて税率が上がる

賃貸の収入から必要経費を引いた不動産所得は、給与所得などと合算して税額を計算する総合課税です。所得税の税率は、課税される所得金額に応じて5%から45%までの7段階で、これに住民税が加わります。次の速算表は、国税庁のタックスアンサー(令和8年4月1日現在法令等)で確認した所得税の区分です。

課税される所得金額 所得税の税率 控除額
195万円未満(1,000円〜194.9万円) 5% 0円
195万円〜329.9万円 10% 97,500円
330万円〜694.9万円 20% 427,500円
695万円〜899.9万円 23% 636,000円
900万円〜1,799.9万円 33% 1,536,000円
1,800万円〜3,999.9万円 40% 2,796,000円
4,000万円以上 45% 4,796,000円

たとえば、課税所得が700万円なら、所得税率は23%の区分です。これに復興特別所得税と住民税(おおむね10%)が加わるため、追加で1円の不動産所得が増えると、おおむね3割強が税負担になります(社会保険料への影響は別です)。NISAの約20.315%と比べると、収益の取り分が違ってくる理由がここにあります。

不動産の売却益は、所有期間で税率が変わる

物件を売却した利益は、譲渡所得として分離課税になります。国税庁のタックスアンサーによると、譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超える土地・建物は長期譲渡で、所得税15%・住民税5%(ほかに復興特別所得税)、5年以下は短期譲渡で、所得税30%・住民税9%(ほかに復興特別所得税)です。保有期間によって、税負担が大きく変わります。

損失が出たときの扱いが正反対

税制の違いで見落とされやすいのが、損失の扱いです。

  • NISA:口座内で売却して生じた損失は、税法上「ないもの」とみなされます。そのため、特定口座や一般口座の配当・譲渡益との損益通算も、翌年以降への繰越控除もできません(国税庁 No.1535)。
  • 不動産投資:不動産所得が赤字の場合、他の黒字の所得(給与所得など)から差し引く損益通算ができます(国税庁 No.1391)。ただし、土地等を取得するための借入金の利子にあたる部分、別荘など趣味・娯楽目的の貸付けから生じた損失、特定組合員の損失などは、損益通算できません。

つまり、NISAは「利益が出たときにだけ税が免除される」仕組みで、不動産は「赤字を他の所得と相殺して、課税所得を下げる」ことができる仕組みです。ただし、この赤字は、減価償却費など実際にはお金が出ていない経費が含まれる場合が多く、手元のお金が減っていないのに帳簿上は赤字、という状態もあります。赤字が出ること自体を目的にした購入は、キャッシュフローを悪化させるだけで、勧められる考え方ではありません。

不動産投資を一定の規模で行っている場合、青色申告特別控除(最大55万円・電子申告などで65万円)や、事業専従者給与などの取扱いが変わります。国税庁のタックスアンサーでは、貸付けがおおむね10室以上、または独立した家屋でおおむね5棟以上の場合に、事業として扱う目安になると説明されています。控除額は改正されることがあるため、国税庁で最新の内容を確認してください。

仮の数字で比べる:710万円を動かした場合

ここまでの違いを、数字で確認します。以下は、あくまで考え方を示すための仮の例です。実際の物件の収支や運用成果を示すものではありません。

前提(仮の例)

  • 不動産:価格3,000万円の物件を、頭金500万円・諸費用210万円(自己資金の合計710万円)、借入2,500万円、金利2.0%、返済期間30年(元利均等)で購入
  • 年間の満室想定家賃240万円、空室10%を見込んで家賃収入216万円、運営費(管理、修繕、固定資産税、保険など)年60万円
  • NISA:同じ710万円を、年3%(仮)で運用した場合

不動産側の年間収支(1年目の目安)

項目 金額(概算) 補足
家賃収入 216万円 満室想定240万円×空室10%の控除後
運営費 ▲60万円 管理、修繕、固定資産税、保険など
営業的な手残り(NOI) 156万円 返済前の収益
年間返済額 ▲約111万円 元利均等で月約9.2万円。うち利息は約49万円、元本返済は約61万円
税引前の手残り 約45万円 自己資金710万円に対して約6.3%
課税所得(仮) 約37万円 156万円-利息49万円-減価償却費(仮に70万円)
所得税等(限界税率33.5%と仮定) ▲約12万円 所得税23%×1.021+住民税10%で約33.5%
税引後の手残り 約33万円 元本返済約61万円による残債の減少は別

NISA側は、710万円×3%=約21万円が運用益で、非課税のため約21万円がそのまま残ります。同じ金額を課税口座で運用すると、約20.315%が引かれ、約17万円です。

この例で分かるのは、次の3点です。

  1. 不動産の手残りは、返済の元本部分(約61万円)が経費にならない一方で、現金は出ていく、という構造のため、「課税所得の赤字・黒字」と「手元のお金」は一致しません。
  2. 一方で、元本返済により借入残高は減り続けます。この分は、売却や完済の場面で純資産の増加として表れます。
  3. 空室率、金利、修繕費が変われば、手残りは簡単に変わります。たとえば空室率が20%になると、家賃収入は192万円に下がり、運営費が同じなら、返済後の手残りは約21万円まで減ります。
この計算は、金利を固定、家賃を一定とした簡易なものです。変動金利の場合は、金利が上がると返済額が増えます。金利上昇への耐性を確認する考え方は、別の記事で整理した、返済余力(DSCR)のストレステストが参考になります。

融資(レバレッジ)の効き方と、そのリスク

不動産投資が、NISAなどの金融商品と最も違う点は、融資を使えることです。自己資金710万円で、3,000万円の資産を動かしているため、資産の価格変動が自己資金に与える影響は、約4.2倍です。上の仮の例で、価格が上下した場合を比べてみます。

価格の変動 NISA(710万円) 不動産(価格3,000万円・自己資金710万円)
10%上昇 +71万円(+10%) +300万円(自己資金に対して約+42%)
10%下落 ▲71万円(▲10%) ▲300万円(自己資金に対して約▲42%)
20%下落 ▲142万円(▲20%) ▲600万円(自己資金に対して約▲85%)

借入の残高は、価格が下がっても減りません。不動産は売却しない限り損失は確定しませんが、売却が必要になったときに、残債を下回る価格でしか売れない場合は、不足分を現金で用意する必要があります。レバレッジは利益を大きくする道具である一方、損失も同じ倍率で大きくします。

金利が上がった場合の手残り(仮の例)

借入2,500万円・30年・元利均等のまま、金利だけが変わった場合の年間返済額と、税引前の手残り(NOI156万円からの差し引き)を比べます。変動金利で借りている場合は、この動きが現実の問題になります。

金利 年間返済額(概算) 税引前の手残り(概算) 自己資金710万円に対する率
2.0% 約111万円 約45万円 約6.3%
3.0% 約126万円 約30万円 約4.2%
4.0% 約143万円 約13万円 約1.8%

金利が2ポイント上がるだけで、手残りは3分の1以下になります。NISAの運用成果は市場に左右されますが、返済という固定の支出は発生しません。不動産は、収益が下がっても返済が続く点が、構造的な違いです。

もう1つ、融資には金融機関の審査があります。融資を受けられるかどうかは、本人の属性(年収、勤務先、金融資産)と、物件の評価、返済の見込みで決まります。NISAのように「資金があれば誰でも始められる」ものではありません。

流動性とリスクの種類の違い

リスク NISAでの影響 不動産投資での影響
価格変動 市場価格が日々動く。長期の分散投資で緩和できる 価格は日々は見えないが、売却時に決まる。取引事例が少ないエリアは評価が難しい
収入の途絶 配当・分配金の減額 空室、家賃滞納、家賃の引き下げ
金利 債券価格や株価に間接的に影響 変動金利なら返済額が増える。借り換え時に条件が変わる
災害・老朽化 直接の影響は小さい 修繕費、保険、建物の価値低下
流動性 売却して、すぐに現金化できる 売却に時間がかかり、売却コスト(仲介手数料など)も必要
集中 銘柄・地域を分散しやすい 1件の金額が大きく、分散しにくい

NISAは売りやすさの面で有利ですが、価格が下がったときに、売らずに耐えるかどうかは、持ち主の判断です。一方、不動産は売りにくいものの、家賃収入が続く限り、価格の変動を直接受けにくい面があります。この性質の違いが、役割分担のヒントになります。

役割分担の考え方:緊急資金・老後資金・事業資金

資産全体の中で、それぞれにどんな役割を持たせるかを、先に決めておくと整理しやすくなります。

  • 生活防衛資金:価格が動かない形で確保し、投資の元手にはしない。
  • NISA:長期で育てる資産。必要になったら売却して現金化できるため、不動産の予備資金として使うことも考えられるが、価格が下がったタイミングで売ることになる点には注意する。
  • 不動産投資:融資を使って収入の柱を作る事業的な資産。自己資金と、空室や修繕に備える予備資金が別に必要。

よくある失敗は、NISAで増やしている資金を、不動産の頭金や予備資金の全額にあててしまうことです。株価が下がる局面と、金利が上がる局面、空室が増える局面が重なると、売りたくない資産を売らざるを得なくなります。

併用するときの手順

  1. 目的を整理する:老後資金、教育費、家賃収入の柱など、いつ・いくら必要かを書き出す。
  2. 資金を用途別に分ける:生活防衛資金、NISAで運用する資金、不動産の頭金・諸費用・予備資金に分ける。
  3. それぞれのリスクを理解する:NISAは元本割れ、不動産は空室・金利・流動性を、数字で確認する。
  4. 無理のない範囲で始める:融資の返済額が、収入の減少や金利上昇でも払える範囲かを確認する。
  5. 年に1回、見直す:枠の使い方、借入残高、家賃収入、予備資金の水準を点検する。

判断前のチェックリスト

  • 不動産の頭金・諸費用・予備資金が、NISAの売却に頼らず用意できるか
  • 空室率が高くなった場合と、金利が上がった場合の、返済後の手残りを計算したか
  • 不動産所得の赤字を、他の所得と通算できる前提で購入していないか(土地の借入利子の扱いなど)
  • NISAの損失が他の口座と通算できないことを理解しているか
  • 売却時の税率(所有期間5年超か5年以下か)を確認したか
  • 融資の審査で、自分の年収、金融資産、他の借入がどう見られるかを金融機関に確認したか

よくある質問

Q. NISAと不動産投資、どちらが有利ですか。

A. 目的、資金の量、リスクに対する許容度によって異なります。NISAは少額から始められて売りやすく、不動産は融資を使って大きな資産を動かせる反面、空室や金利、流動性のリスクがあります。優劣ではなく、役割の違いで考えるのが実務的です。

Q. 不動産投資の自己資金を、NISAで運用してもよいですか。

A. 購入までの期間が短い資金は、価格が下がったときに必要な額が不足するおそれがあります。頭金や諸費用は、価格変動の小さい形で準備するのが一般的です。余裕資金の範囲でNISAを使うか、税理士や金融機関に相談してください。

Q. NISAで損をした場合、不動産の利益と相殺できますか。

A. できません。NISA口座の売却損は、税法上ないものとみなされ、他の口座や他の所得との損益通算も繰越控除もできません。不動産の売却益は分離課税のため、上場株式等の損失とは区分が別です。

Q. 不動産投資の赤字は、給与所得と相殺できますか。

A. 不動産所得の赤字は、原則として給与所得などと損益通算できます。ただし、土地等を取得するための借入金の利子にあたる部分などは対象外です。個別の扱いは、税理士や税務署で確認してください。

Q. NISAの残高があると、不動産の融資審査に有利ですか。

A. 金融資産の保有状況は、審査で確認される項目の1つです。ただし、評価の方法は金融機関ごとに異なり、有利になるかどうかは一律には言えません。事前に金融機関に聞いて、確かめるのが安心です。

まとめ

  • NISAは運用益が非課税の口座で、年間投資枠は最大360万円、生涯の非課税保有限度額は1,800万円(簿価ベース)、保有期間は無期限です(金融庁・国税庁で確認)。
  • 不動産投資は、不動産所得として総合課税され、所得税率は5〜45%(これに住民税が加わる)。一方で、経費や減価償却、損益通算による課税所得の調整ができます。
  • 損失の扱いは正反対で、NISAの売却損は他と通算できず、不動産所得の赤字は原則として他の所得と通算できます。
  • 融資を使う不動産は、利益も損失も自己資金に対する倍率が大きくなります。価格下落、空室、金利上昇に備えた予備資金が欠かせません。
  • 併用するときは、目的と資金を用途別に分け、NISAを不動産の頭金・予備資金の全額にあてない設計にします。

税制や融資の条件は改正されることがあります。個別の判断は、税理士・金融機関・専門家に確認してください。

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※本記事は一般的な情報の提供を目的としたものであり、特定の投資・融資・税務上の判断を勧めるものではありません。制度や数値は記事作成時点の一般的な内容です。個別の判断は、金融機関・税理士などの専門家にご確認ください。

最終更新:2026年10月

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海外に住むと不動産投資はどうなる?非居住者の税金と融資

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海外に住むと不動産投資はどうなる?非居住者の税金と融資

海外赴任や移住が決まったとき、日本に残す収益物件をどうするかは、税金と融資の両面で悩みどころです。結論から言えば、海外に住んでも国内不動産の家賃収入は日本で課税され、家賃からは原則20.42%が源泉徴収され、確定申告には納税管理人が必要になる場合があります。さらに、融資の面では、新しい借入が難しくなる傾向があります。この記事では、居住者と非居住者の区分、家賃・売却時の源泉徴収、申告の方法、住民税・固定資産税、融資の考え方、出国前後の準備手順を、国税庁などの一次情報で整理します。

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契約書とペン

居住者と非居住者の区分:何で決まるのか

所得税法では、日本国内に住所があるか、現在まで引き続き1年以上居所がある個人を「居住者」、それ以外を「非居住者」と区分します。国税庁のタックスアンサー(No.2875)では、「住所」は生活の本拠をいい、客観的な事実によって判定すること、「居所」は生活の本拠というほどではないが、現実に居住している場所をいうことが示されています。

実務では、海外へ転居する場合の判定を助けるために、「住所の推定」の規定があります。たとえば、日本の会社に勤める人が1年以上の予定で海外の支店などに転勤するときは、国内に住所がないものと推定され、出国後は非居住者になります(No.1926)。反対に、海外に出ても、短期の旅行や出張の扱いであれば、住所は日本に残るものとされます。滞在日数だけで機械的に決まるわけではないため、家族の居所、職業、資産の所在、日本に戻る予定などを総合して判断されます。

項目 居住者 非居住者
課税される所得の範囲 国内外のすべての所得(全世界所得)が原則 国内源泉所得のみ
国内の家賃収入 課税される 課税される(国内源泉所得)
海外の給与・事業所得 課税される 原則として日本では課税されない
国内不動産の売却益 課税される 課税される(国内源泉所得)
申告の窓口 本人が確定申告 納税管理人を定めて申告する場合がある

判定が分かれる典型は、単身赴任で家族が日本に残る場合、海外と日本を行き来する場合、留学や長期滞在でビザの期間が1年に満たない場合などです。租税条約により、日本と相手国の双方が居住者とみなすときは、恒久的住居、利害関係の中心、常用の住居、国籍の順で判定されることがあります(No.2875)。判定に迷うときは、出国前に、税務署または税理士に相談してください。

非居住者になると、日本で課税される所得は何か

非居住者の課税対象は、国内源泉所得だけです。国税庁のタックスアンサー(No.2878)では、国内源泉所得の範囲に、国内にある不動産の貸付けの対価と、国内の土地・建物の譲渡による対価が含まれることが示されています。つまり、日本に不動産を残したまま出国すると、家賃収入も、将来の売却益も、引き続き日本の課税対象になります。

所得の種類 日本での課税 主な課税方法
国内不動産の家賃(不動産所得) 課税される 借主による源泉徴収(20.42%)+確定申告(総合課税)
国内不動産の売却益(譲渡所得) 課税される 買主による源泉徴収(10.21%)+確定申告
海外で働いて得る給与 原則として課税されない 居住国の税制による
日本の預金の利子 国内源泉所得に当たる場合がある 源泉徴収で課税が完結する場合がある
国内源泉所得のうち、不動産の貸付けや譲渡は、源泉徴収されても、それで課税が終わらず、確定申告で精算する必要があります(No.1926)。「源泉徴収されているから、申告は要らない」とは言えません。

家賃の源泉徴収20.42%:誰が、何を、いつ払うのか

国税庁のタックスアンサー(No.2880)によると、日本国内で、非居住者(または外国法人)から不動産を借りて賃借料を支払う者は、支払いのときに、20.42%(所得税および復興特別所得税)の税率で源泉徴収する必要があります。支払者が法人か個人か、事業者かどうかは問われません。

  • 対象:国内にある不動産や、不動産の上に存する権利の貸付けの対価
  • 税率:20.42%(所得税20%+復興特別所得税0.42%)
  • 納付期限:原則として、支払った月の翌月10日まで
  • 例外:個人が、自己またはその親族の居住の用に供するために土地・家屋を借りて支払う賃借料は、源泉徴収が不要
  • 令和9年(2027年)分以後:源泉徴収する税目が「所得税、防衛特別所得税および復興特別所得税」に変わる(詳細は国税庁で確認)

ここで重要なのは、源泉徴収の義務を負うのは、家賃を払う借主であって、貸主(あなた)ではない点です。入居者が個人で、自己の居住用に借りている普通の賃貸なら、例外に当たり、源泉徴収は不要です。一方、借主が法人(社宅として借りる会社、法人契約のサブリース会社など)の場合は、例外に当たらず、法人が20.42%を引いて納付します。

収益物件の多くは、個人の入居者が自分で住むために借りているため、源泉徴収が不要となる場合が少なくありません。ただし、法人契約の物件が混じっている場合は、貸主が非居住者になったことを借主(法人)へ通知する必要があり、借主側の経理処理が変わります。サブリース契約の場合、サブリース会社が借主になるため、源泉徴収の要否を事前に確認する必要があります。

確定申告と納税管理人:出国前に決めておくこと

非居住者でも、国内の不動産所得があれば、確定申告が必要になる場合があります。国税庁(No.1926)では、年の途中で出国する場合の申告方法を、次の3つの型で示しています。

パターン 内容 申告の時期
(1)転出時までに納税管理人を指定した場合 1月1日から転出日までの全所得と、転出後の国内源泉所得を合算して申告 翌年2月16日〜3月15日に、納税管理人を通じて申告・納税
(2)納税管理人を指定せずに出国する場合 居住者期間の所得について、出国時までに準確定申告が必要 出国時まで。出国後の国内源泉所得は、翌年に納税管理人を通じて別途申告
(3)1年を通じて海外にいる場合 国内源泉所得が所得控除の合計額を超えるときは、原則として申告 翌年2月16日〜3月15日に、納税管理人を通じて申告

納税管理人は、非居住者に代わって、確定申告書の提出や税金の納付などを行う人で、個人でも法人でも構いません。選任したときは、「所得税・消費税の納税管理人の選任・解任届出書」を、非居住者の納税地を所管する税務署長に提出します。帰国して居住者に戻ったときは、解任の届出が必要です。

納税管理人は、あくまで手続きの代理人です。税額の判断や納税の責任を、本人に代わって負うわけではありません。税理士に依頼する場合は、不動産所得の計算(減価償却、借入利子など)と申告を、一括して任せられるかを確認してください。

申告しないと損をする場合がある(仮の例)

源泉徴収された20.42%は、いわば前払いの税金です。実際の税額は、確定申告で、経費を引いた後の不動産所得に累進税率をかけて計算します。以下は、基礎控除などを考慮しない、簡易な仮の例です。

項目 金額 計算
年間の家賃(借主が法人の場合) 240万円
源泉徴収される税額 490,080円 240万円×20.42%
必要経費(借入利子、減価償却費、管理費、固定資産税など) 150万円 仮の金額
不動産所得 90万円 240万円-150万円
申告による税額(所得税率5%の区分) 約45,945円 90万円×5%×1.021(復興特別所得税)
還付される額 約444,000円 490,080円-45,945円

このように、経費が多い場合は、申告をすることで源泉徴収された税の大半が戻ってくることがあります。逆に、申告をしなければ、経費に関係なく、家賃の20.42%が納税されたままになります。一方、経費が少ない、所得が大きい場合は、追加で納税することもあります。いずれにせよ、申告で精算する前提で資金計画を立てておくのが安全です。

売却するとき:買主による10.21%の源泉徴収

非居住者が国内の土地・建物を売ると、買主が、代金から源泉徴収をします。国税庁のタックスアンサー(No.2879)では、非居住者等から土地・建物を購入したとき、買主は、支払う対価の10.21%(所得税および復興特別所得税)を源泉徴収する必要があるとしています。例外として、個人が、自己またはその親族の居住用として購入し、代金が1億円以下の場合は、源泉徴収が不要です。

売却益に対する本来の税額は、譲渡した年の1月1日現在の所有期間で決まります。国税庁(No.3208、No.3211)によると、所有期間が5年を超える土地・建物は、長期譲渡で所得税15%(復興特別所得税を加えると15.315%)、5年以下は短期譲渡で所得税30%(同じく30.63%)です。住民税の扱いは、1月1日時点の住所によるため、市区町村に確認が必要です。

仮の例として、所有期間が5年を超える物件を3,000万円で売り、譲渡益が500万円だった場合を考えます。買主が個人の居住用でなければ、買主は、3,000万円×10.21%=約306万円を源泉徴収します。一方、本来の所得税は、500万円×15.315%=約76.6万円です。差額の約229.7万円は、確定申告で還付を受けることになります。つまり、売却代金のうち、かなりの金額が申告までの数か月間、手元に入らない可能性があります。

源泉徴収された税額の還付を受けるには、確定申告が必要です。売却を予定しているときは、納税管理人を通じた申告の手続きと、還付金の受取口座を、売却の前に準備しておくことをおすすめします。

住民税・固定資産税・相続税への影響

個人住民税:1月1日の住所で決まる

個人住民税の所得割は、賦課期日である1月1日に、その市町村内に住所がある個人に課されます(地方税法294条。総務省・各自治体の案内)。年の途中で出国し、翌年1月1日に国内に住所がなければ、原則として、その年の所得に対する住民税は課されません。一方で、出国が1月2日以降で、1月1日に住所があれば、前年の所得に対する住民税は課されます。ただし、短期の出国は旅行と扱われるなど、判断は自治体ごとの運用や個別の事情に左右されます。

固定資産税:所有者は変わらず、納税管理人が必要

固定資産税は、毎年1月1日の所有者に課税されます。海外に転出しても、物件を所有し続ける限り、納税義務は続きます。多くの自治体では、国外に住む所有者に、納税管理人を選任して市区町村に申告するよう案内しています(根拠は地方税法355条とされています)。申告の期限や様式は、自治体ごとに異なり、出国の10日前までとする例もあるため、物件所在地の市区町村に確認が必要です。申告をしないと、納税通知書が届かなくなるおそれがあります。

相続税:国内の不動産は、住所に関わらず課税対象

相続税では、相続人や被相続人が日本に住所がなくても、国内にある不動産は課税対象になるのが原則です(国税庁 No.4138)。国内に住所がない相続人は、納税管理人を定めて申告する必要があります。国籍や、過去10年以内の住所の有無によっては、国外財産も課税対象になる場合があり、判定は複雑です。出国の前後に相続が発生する可能性があるときは、早めに税理士へ相談してください。

融資の現実:新規は難しく、既存は条件の確認が先

国内の金融機関の融資は、返済能力を、国内での安定した収入と、連絡・回収のしやすさで評価するのが一般的です。非居住者になると、海外での収入を確認する手段が限られること、督促や担保の実行に手間がかかることから、新規の融資は受けにくくなる傾向があります。融資の対象を国内居住者に限っている金融機関もあります。これは各金融機関の審査方針によるため、個別に確認が必要です。

状況 起こりうること 確認すること
出国前に新規融資を受けたい 出国予定が決まっていると、審査で不利になる場合がある 出国予定や在留の見込みを、申込時にどう扱うか金融機関に確認
既存の融資が残っている 契約書に、住所変更の届出や、居住地に関する条項がある場合がある 契約書の届出条項、期限の利益に関する条項を確認
出国後に借り換えたい 非居住者への融資が難しく、条件が合わないことがある 借り換えの要否は、出国前に目処をつける
海外で稼ぐ収入を返済に充てたい 海外収入は、国内の審査で評価されにくいことがある 返済は、国内の家賃収入と預金で成立するかを確認

既存の融資がある場合、まず契約書(金銭消費貸借契約書)を読み返し、住所変更や居住地の変更を届け出る義務があるか、届出を怠った場合に期限の利益を失う条項があるかを確認します。そのうえで、出国の予定を、早めに金融機関へ伝えるのが安全です。伝えずにいると、郵便物が届かないなどのトラブルを招き、関係が悪化する原因になります。なお、融資の審査の見られ方は、金融機関との関係づくりの記事も参考になります。

出国前後の確認手順

  1. 区分の確認:出国時期と、日本との関係(家族の居所、帰国予定、職業)を整理し、居住者・非居住者の区分を税務署または税理士に確認する。
  2. 納税管理人の選任:所得税・消費税の納税管理人を選び、税務署に届出する。固定資産税、住民税の納税管理人も、市区町村に申告する。
  3. 賃貸の管理体制の整備:管理会社へ業務を委託し、家賃の受取口座、修繕の判断権限、緊急連絡先を決める。
  4. 源泉徴収の扱いの確認:借主が個人の居住用か、法人かを、契約ごとに整理し、法人借主には貸主の居住地変更を通知する。
  5. 融資・保険の契約確認:融資の契約書、火災保険・地震保険の契約者住所の変更手続きなどを確認する。
  6. 帰国時の手続きも想定:帰国して居住者に戻ったとき、納税管理人の解任届出などが必要になる。

見落としやすい点:外為法の報告と租税条約

非居住者が、日本国内の不動産を新たに取得するときは、外為法に基づく報告が必要になる場合があります。財務省の案内では、取得後20日以内に、日本銀行を経由して財務大臣へ報告する仕組みで、2026年4月1日以降の取得については、報告事項や対象範囲に変更があります。これは、非居住者が日本で物件を買い増すときに問題となる点なので、出国後に新たに購入を検討する場合は、事前に財務省・日本銀行の最新案内を確認してください。

租税条約については、不動産の所在地国での課税を認める条約が多く、日本の物件の家賃については、日本の国内法に基づいて課税されます(No.2880)。一方、居住国側でも課税される場合は、二重課税を調整する仕組み(外国税額控除など)の対象となる可能性があります。居住国の税制は、国により異なるため、居住国の専門家にも確認してください。

判断前のチェックリスト

  • 居住者・非居住者の区分を、出国前に税務署か税理士に確認したか
  • 納税管理人を選任し、税務署・市区町村へ届出する手配をしたか
  • 借主ごとに、源泉徴収の要否(個人の居住用か、法人か)を整理したか
  • 源泉徴収された税の還付を前提にした資金計画ができているか
  • 融資の契約書で、住所変更の届出や期限の利益に関する条項を確認したか
  • 固定資産税の納税管理人の申告期限を、物件所在地の市区町村に確認したか
  • 売却を想定するなら、源泉徴収10.21%による資金の一時的な目減りを織り込んでいるか
  • 帰国の可能性と、帰国後の手続きも想定しているか

よくある質問

Q. 海外に住んでいる間の家賃収入は、日本で申告する必要がありますか。

A. 国内にある不動産の家賃は国内源泉所得に当たり、日本で課税されます。家賃から源泉徴収されている場合でも、確定申告で精算することで、還付が受けられる場合や追加の納税が必要になる場合があります。納税管理人の手続きを含めて、税務署または税理士に確認してください。

Q. 海外移住したら、国内の不動産は売却すべきですか。

A. 一概には言えません。管理の負担、融資の残高と条件、売却時の源泉徴収と税金、帰国の可能性などを総合して判断します。売却する場合も、保有し続ける場合も、税金と手続きの両面で、非居住者特有の負担が生じます。

Q. 借主が個人の場合、源泉徴収は必要ですか。

A. 個人が、自己またはその親族の居住の用に供するために借りている場合は、源泉徴収は不要です(No.2880)。借主が法人の場合や、個人でも事業用に借りている場合は、源泉徴収が必要です。契約ごとに確認してください。

Q. 納税管理人は誰に頼めばよいですか。

A. 個人でも法人でも構いません(No.1926)。親族や友人のほか、税理士に依頼する例があります。申告書の提出や納税を代行するため、日本に住んでいて、連絡が取りやすく、信頼できる人を選びます。

Q. 出国したら、住宅ローンや投資用ローンは一括返済になりますか。

A. 契約の内容によります。住所変更の届出義務や、居住に関する条項が契約書に定められている場合があります。出国の予定がわかった時点で、契約書を確認し、金融機関に早めに相談してください。

まとめ

  • 居住者か非居住者かは、住所(生活の本拠)と居所で決まり、1年以上の海外勤務などは、国内に住所がないものと推定されます。
  • 非居住者でも、国内不動産の家賃と売却益は、国内源泉所得として日本で課税されます。
  • 家賃は、借主が法人などの場合、20.42%が源泉徴収されます。個人が自己またはその親族の居住用に借りる場合は不要です。
  • 売却時は、買主が10.21%を源泉徴収する場合があり、確定申告で精算します。確定申告には納税管理人が必要になる場合があります。
  • 融資は、新規が受けにくくなる傾向があり、既存の融資は、契約条項の確認が必要です。出国前に、税務署・市区町村・金融機関・税理士へ相談するのが安全です。

税制や融資の条件は改正されることがあります。国税庁 タックスアンサー No.2880などで最新の内容を確認し、個別の判断は、税理士・金融機関・専門家に相談してください。

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※本記事は一般的な情報の提供を目的としたものであり、特定の投資・融資・税務上の判断を勧めるものではありません。制度や数値は記事作成時点の一般的な内容です。個別の判断は、金融機関・税理士などの専門家にご確認ください。

最終更新:2026年10月

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