織田信長の名言に学ぶ、戦国時代を生き抜く2つのマネー術④
【はじめに】
織田信長。
戦国の乱世に現れた天才武将であり、またの名を第六天魔王。
彼は戦国時代の常識を打ち破り、新たな世界を創造しようとしました。
そんな彼はいくつもの言葉を世に残していきました。その中には現在でも生かせる言葉が多数存在しています。
「絶対は絶対にない」
この言葉は、以前紹介した「戦に勝てるかどうかと兵力は必ずしも比例しない。比例するかそうでないかは戦術、つまり自身にかかっているのだ」と同様に出典がはっきりしていません。ですが、信長の名言として広く知られています。
この言葉には信長の常識を打ち破ろうとする思いと自戒の念の2つの思いが見えてきます。
それは「一見、絶対に不可能に思えることでも必ず糸口はある」という強い意志と「絶対に大丈夫ということは絶対にない」とする自分自身への戒めです。
この2つの考えに共通しているのは、何事に対しても「絶対」という思い込みを持って臨んでしまうと、柔軟な発想ができずに自分自身を苦しめてしまう結果を招くという点です。
信長は人生において「絶対は絶対にない」の言葉通りに行動したと思われる場面が多々あり、それを垣間見ればマネー術に生かすことも可能です。
【絶対などなかった信長の人生】
「絶対」を「絶対」に信じていなかった織田信長。
戦国時代の常識という絶対に対しては特にそうだったようです。
そんな信長は家督を継いでしばらくすると、領地から収入を得られるようになります。
通常ならこの収入は領地内の城主や豪族に分け与えられます。
なぜなら、戦になった時にそこから兵力となる百姓を確保するのが戦国の常識だったからです。
しかし、信長はそうはしません。
得られた収入で牢人や闇商人、村を追われた者など素性の知れない流れ者たちを兵として雇ったのです。
ですが、まともな生活を送れていない者たちばかりですから、1人の兵としては貧弱です。それでも信長が雇い入れたのは、彼らが百姓とは違い戦に専念し続けられるからです。これにより戦闘に特化した傭兵集団を作り上げ、「兵農分離」を実現してみせるのです。
また、絶対を信用しないという点では「桶狭間の戦い」もそうです。
25000とも50000とも言われている今川勢に対して織田勢はその10分の1程度だったと言われています。
この戦況なら籠城するのが当時の定石ですが、ここでも信長は常識には囚われません。
定石とは逆に城から打って出て見事勝利を収めています。
これらの話から伝わってくるのは、信長が常識を絶対視することなく、常に可能性を探り考え抜いていた人間であるということです。
そして、最期の時を迎える「本能寺の変」においても明智光秀の謀反に対して「是非に及ばず」の言葉を残した話があるのも「絶対は絶対にない」の考えを持っているが故ではないでしょうか。
戦国時代に絶対に裏切らないと言い切れる部下などいなかったはずです。だからこそ、最期の時にも信長は謀反に対する理解を示したのでしょう。
とはいっても、絶対を無視した行動をするためには部下からの信用が必要不可欠です。
そうでなければ、桶狭間の戦いをはじめとした常識破りの戦術をとった数々の戦で勝利を収めるのは不可能に近いものです。
そして、この信用を得るにも絶対を疑う必要があります。
【マネー術①信用されていると思うな!】
「自分には信用がある」
「わたしは信頼されている」
それは本当ですか?
そのように思い込んでいるだけではないですか?
現実には、自分では「わたしには信用がある」と思い込んでいても実際にはそれほどの信用がない場合も多々あり、人間はなかなかその事実に気づくことができません。
なぜなら、人間には自分にとって都合のいい証拠ばかりを集めて、その思い込みをさらに強めてしまう傾向があるからです。
このような傾向を認知心理学や社会心理学では「確証バイアス」と呼び、「人間には、思い込みや仮説を検証するとき、それを支持するような証拠ばかりに注目して、それを反証するような証拠は無視したり、信じようとしない傾向があること」を差します。
桶狭間の戦いにおいて、信長に籠城を進言した家臣たちは、まさに確証バイアスにかかって戦況を見ていたといえます。当時の常識など籠城するのに都合のいい事実を集め意見していたのでしょう。
また、兵農分離に懐疑的な意見を持っていた者たちに対しても同じようなことが言えます。
そして、この確証バイアスは、イギリスの認知心理学者ペーター・カスカート・ウェイソンによって考案された「ウェイソン選択課題」でその存在が証明されています。
実際の「ウェイソン選択課題」は、次のようなものです。
まずはルールを決めます。
ルールは「カードの表が母音(A、E、I、O、U)なら裏は必ず偶数」というものにしましょう。
そして、「E」「K」「6」「9」という4枚のカードがあります。
さて、ここで問題です。
さきほどのルールが正しいかどうかを調べるためには、どのカードとどのカードをめくって確かめればいいでしょうか?
ここで、多くの人は「E」と「6」を選びます。
しかし、正解は「E」と「9」です。
論理的に考えれば、ルールは「表が母音なら裏は偶数」であって「裏が偶数なら表は母音」ではないのですから、「6」はめくる必要はありません。
ルールが正しいかどうかを調べるためには、「E」の裏側が偶数であるかどうかと、「9」の表側が母音ではないかを確認する必要があるのです。
しかし、多くの人は確証バイアスにはまって、「表が母音なら裏は偶数」というルール、すなわち仮説を支持するような証拠を集めようとし、「E」と「6」を選んでしまいがちなのです。
もし、信長がこの課題を受けていたなら正解を導き出していたはずです。
なぜなら、批判的に考える、つまりクリティカル・シンキングの癖を信長が持っていたといえるからです。それは常識を打ち破る行動から読み取れます。
要するに、常に自明性を疑う行動をとっていたということです。
しかし、多くの場合、人間は確証バイアスのようなことが生じている状態にすら気づいていません。
ですから、当然のことながらこのようなバイアスによって起こる自らの判断や思い込みの歪みにも気づいていません。
結果として、本当は信用がないのにも関わらず、信用があるという思い込みを持ち、その思い込みをさらに強くしてしまう事態に至るわけです。
金融機関からの融資を受ける際に、このようなことが起こらないようになっているのはお分かりなはずです。
金融機関は、あなたの職業や年収など客観的に信用できる事実に対して融資をしているのです。ですから、自分自身の人柄が信用されていると過度に思わないでください。
そう思い込んでしまうと、確証バイアスにかかってしまい、大きな判断ミスを招きかねません。
【マネー術②信用を築き上げろ!】
そもそも、信用とは何なのでしょうか?
辞書で「信用」という言葉を引いてみると、いくつかの意味が載っていますが、その中にひとつに「それまでの行為や業績から、信頼できると判断あるいは評価されること」というものがあります。
そうなると「信頼」とは何なのかとなってくるはずです。
これもいくつかの意味がありますが、一つが挙げるとするなら「信用して任せること」という記述があります。
これらから考えると、「信用」とは過去の実績に対するものであるのに対し、「信頼」とは未来に向かってのもの、という解釈ができます。
つまり、「信用」を作っていけば「信頼」してもらえるし、「信頼」してもらうために「信用」を作っていく、ということです。
では「信用」を作るためにはどうすればよいのでしょうか。
2018年に亡くなった社会心理学者で文化功労者にも選ばれた山岸俊男は、人間関係において日本人が考える「信頼」とは、「安心」という言葉によって定義されるべきものであり、本来の「信頼」とは異なるものであるという内容のことを述べています。
これは「日本人」という気質がもたらすものではなく、過去の日本における社会的構造がもたらしたものと山岸は考えていました。
これまでの日本社会では、限られた相手との継続的な利害関係を結ぶことが多く、そのような関係において相手を裏切ることは「村八分」のような状況をまねき、自身の利益を損なうことにもなりかねませんでした。
そのため、相手の「裏切り」を心配する必要は少なかったのです。
これが山岸のいう「安心」です。
これに対して、どちらかといえば不特定多数の相手と一時的な利害関係を結ぶことが多く、「裏切り」の可能性を考慮しなければならないような社会的不確実性の高い状況のなかでも、あえて相手を信用するというのが「信頼」ということになります。
この信頼を選んだのが信長です。
兵農分離によって戦闘に特化する傭兵集団と利害関係を結んだというのが、まさにそれを示しています。
お金で兵力を買った形にはなっていますが、これによって戦で武功を上げることが互いの信用を築き上げるのにつながるのです。
そして、現在の日本社会は、グローバル化が進み、かつてのように限られた相手とだけ継続的な関係を結んでいればいいという時代は終わりました。
そのような中で「安心」だけを求めていても、うまく立ち行かない世の中になってきています。
「やみくもに誰でも信頼するべきだ」ということではありません。
社会的不確実性の高い社会では、相手が信頼できるかどうかを見極めるための能力が重要になってきます。
このような能力は「社会的知性」と呼ばれます。
現在のようなグローバル化が進んだ市場では、優れた社会的知性を持ち、相手を信頼することのできる人間が最も大きな利益を得ることができるのです。
したがって、社会的知性を身につけて、それによって見極めた相手との信用関係を作っていくことが、自らの信用を高めていくことにもつながります。
今回話したマネー術については杉田卓哉著「信長から僕が学んだ勝つために一番大切なこと」で分かりやすく学ぶことができます。