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日本でもキャピタルフライトは起こるのか? 起こったらどうなるのか?

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キャピタルフライト(capital flight)という言葉を知っていますか?

「capital」は「資本」で「flight」は「飛行」です。

資本が飛んでいく、つまり逃げていくということで、日本語では「資本逃避」と呼ばれます。

ある国の政治・経済的状況が不安定になると、資産価値が減少するリスクを避けるために、その国の通貨を状況が安定している別の国の通貨に換えて、より安全な所へ資金を逃避させようとする動きが生じます。

このような動きが短期間のうちに急激に生じるのがキャピタルフライトであり、さまざまな政治・経済的状況のさらなる混乱を引き起こすことにつながっていってしまうのです。

ですが、キャピタルフライトは、自国の状況が不安定であることが前提で引き起こされる行動なので善悪の判断をつけるようなものではありません。

むしろ、自国の状況がおかしくなったときに自分の資産を残すための防衛手段の一つとも言えます。

ですから、今回は過去のキャピタルフライトの事例も見ながら、

日本でも起こる可能性があるのかどうか?

もし起こる可能性があるのならどのようにして備えるべきなのか?

などについて説明していきます。

落ちるべくして落ちたアルゼンチン経済

20世紀の初め、アルゼンチンは肥沃で広大な土地を生かした農産物や畜産物の輸出国として南米で最も豊かな国であり、一人当たりの国民所得で世界のベスト10にも入ったことがあるほど裕福な国でした。

しかし1930年代以降、政治情勢の不安定化や産業構造の転換失敗により、アルゼンチンは凋落の一途をたどり、安直なバラまき政策などのせいもあって1988年には年率5000倍ものハイパーインフレを経験、翌年の1989年には前年比50倍もの物価上昇が見られるに至り、経済は大混乱に陥っていたのです。

そんな中、1989年に大統領に就任したカルロス・メネムは、親米的な政策を掲げ、1ドル=1ペソで固定するドルペッグ制を採用します。

自国の為替レートを米ドルに連動させることで安心感をもたらしたおかげか、海外からの投資を大きく呼び込むことに成功し、1990年代の前半には急速な景気の回復が見られました。

しかし、この景気回復は海外資本の流入に伴う短期的な消費ブームに依存した見かけ上のものであり、さらに資源や公的企業を海外資本に売り渡してしまっていたため輸出は激減していきました。

消費ブームで輸入は激増、輸出は激減。

そうなると、当然のことながら、貿易収支が急激に赤字化していく一方で、ペソはドルペッグ制により高止まりしている状態。

このような状況の中、経済に明るい人たちは将来のペソ下落を予感し、資産をドルに換えて他国に移動させ始めました。

そう、キャピタルフライトが起こってしまったのです。

その大きな要因の一つが1ドル=1ペソとし、ペソからドルへの両替を可能としたドル兌換法です。

この法のおかげで価値がなくなりつつあるペソをドルへと替える流れが大きくなり、外貨準備が大量に流出する事態となりました。

さらに追い打ちをかけるように、1999年、アルゼンチンの輸出相手として30%の割合を占めていたブラジルで通貨危機が発生。

レアルが切り下げられ、輸出はさらに低迷し、アルゼンチン経済は急速に悪化していきます。

もし、ここでドルペッグ制をやめ変動相場制に移行していれば、輸出産業は息を吹き返していたかもしれません。

しかし、国民の抱えるローンの大半がドル建てで行われていたことに加え、1ドル=1ペソを前提に投資を行っていた海外投資家の反対もあって、ドルペッグ制をやめることは政治的に不可能な状況となっていました。

そこでアルゼンチン政府は、IMFの融資によって状況を打開しようとしますが、融資の条件であった緊縮政策の実施は、労働団体のゼネラルストライキによりあえなく頓挫。

アルゼンチン国債は暴落し、アルゼンチン政府は2001年12月1日に預金封鎖(週に引き出せる上限を250ドルに制限)を実施、12月24日にはとうとう債務不履行を宣言するに至ったのです。

翌2002年、アルゼンチンはようやく変動相場制に移行し、その後、預金封鎖も解除。

しかし、ドル資産が激減していたため、預金は強制的にペソで払い戻されることになり、レートも、当時の実勢レートが1ドル=3ペソ前後であったのに対して、1ドル=2ペソで払い戻され、差額は長期国債に換えられるという有り様だったのです。

輸入品の価格は3倍に値上がりし、インフレは急速に進行。

景気は悪化し、失業率は20%超となり、中流層だった人たちも軒並み貧困層になってしまったのです。

中国でもキャピタルフライトが起こっていた?

中国政府は、2015年の8月11日から13日にかけて三日連続で「基準値」の引き下げを実施しました。

「基準値」とは中国の通貨である人民元の基準となる為替ルート水準のことですから、人民元を引き下げたということになります。

当時、中国政府は資金の海外流出を防止するため、金融緩和策をとり経済のテコ入れをはかろうとしていました。

しかし、その一方で人民元の相場をある程度の範囲内におさめる目的で、人民元買い、外貨売りという為替介入も行っていたと考えられます。

ただ、人民元買いは金融引き締めの効果があるため、金融緩和策の効果を小さくさせてしまいます。

そこで中国政府は、人民元買いの量を減らす目的で、人民元の相場を引き下げたのではないかと考えられるのです。

中国が、このような手段を取ったのはキャピタルフライトが起こっていたからだと言われています。

2014年の第二四半期から中国の資本収支はマイナスへと転じており、特に現金の流出が大きくなっていました。

資本収支は、ある国に対する投資資金の流入をあらわすものですから、それがマイナスになっているということは資本がそれだけ出ていったことになります。

要因としては、

「人民元の下落を予想した中国国民が人民元を外貨に換えていった」

「中国景気の後退を感じ取った海外資本が資金の引き上げにかかっていた」

といったものが挙げられます。

それを示すようにある証券会社では2015年の9月までの9か月の間に約3500億ドルもの資産が中国から流出したというデータが取れています。

さらに、ブルームバーグでは同年の中国の資産流出総額が1兆ドルに達していたと2016年に報じています。
このような数字が出ていた点を見ると、中国でキャピタルフライトが起きていたのは否定しようがないと思われます。

ただ気がかりなのは、このキャピタルフライトが収束しないまま米中貿易戦争が起こっているのではないかという点です。

このまま貿易戦争が続けば、アルゼンチンとは比べ物にならないくらいの影響が出るでしょう。

そして、その影響を日本が避けるのは困難です。

日本でもキャピタルフライトが起こりえる

国内総生産(GDP)に対する政府の債務の比率を見てみると、日本は右肩上がりで増加し続けており、G7に含まれる他の国と比べてもその比率は著しく高く、250%近くにもなります。

ただ、いくら債務の比率が増え続けたとしても、日本国債を買ってくれる投資家がいる限り、日本経済は回ります。

しかし、投資家は

「そのうち日本政府が債務を何とかするだろう」

と信じているから、国債を買ってくれているにすぎません。

そのような根拠のない信用がいつまで持つかは、まったくわかりません。

もし、何らかのきっかけで日本が信用を失えば、日本国債を買おうとする投資家はいなくなり、日本円も信頼されなくなって、投資家たちが資金を日本から別の国へと逃がすことになるのは明白です。

つまり、キャピタルフライトが発生することになります。

そうなれば、急速なインフレが発生して物価はあっという間に上がっていくことになるでしょう。

日本でもこれまで中流層だった人たちが一気に貧困層へと叩き落されることになります。

もちろん、景気も悪化し、失業率は大幅に増え、当然のことながら治安も相当に悪くなって、とても安心して住める国ではなくなってしまうかもしれません。

そして、その引き金となる「日本に対する信頼の崩壊」は、いつ、何をきっかけに起こるかわからないのです。

最後に

世の中には、「日本は破綻しない」と信じている人、発言している人が珍しくありません。

「お上が何とかしてくれる」と信じている人も多く存在するでしょう。

しかし、世界の歴史を振り返ってみても、破綻しない国家などありません。

そして、実際に日本が破綻してしまえば、国の助けはほとんど何も期待できません。

それだけでなく、先ほども述べたように、景気の悪化が治安の悪化を招き、日本に安全に住むことすら難しくなる可能性も低くありません。

できることはただ一つ。

そうなる前に先手を打って、自分にできることをやっておくことです。

まず、資産を増やすことです。

ですが、キャピタルフライトが発生すると、預貯金は役に立ちません。

資産を増やすだけでなく、外貨や株にして持っておくなど、リスクヘッジも重要です。

「日本は破綻しない。大丈夫」というのは、イワシの頭に対する信心と同じ程度の根拠しかないと考えておいてください。

そして、キャピタルフライトが起こったときに頼れるのは自分自身だけなのです。

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