
不動産投資のリスクは、購入してから気づくものではなく、購入前に洗い出して数字で見積もり、備えを決めておくものです。リスクをゼロにすることはできませんが、種類ごとに大きさを測り、対策を決めておけば、判断を誤る可能性を下げられます。この記事では、空室、金利上昇、災害・老朽化、売却の4つを中心に、具体的な数字の例と、購入前に確認する手順を整理します。

不動産投資の主なリスクを4つに分ける
不動産投資のリスクは、性質が異なるため、対策も別々に考える必要があります。まず全体像を整理します。
| リスク | 内容 | 主な対策 |
|---|---|---|
| 空室・家賃下落 | 入居が決まらない、または家賃が下がり、収入が減る | 需要のあるエリアを選ぶ、家賃を相場に合わせる、複数戸で分散する |
| 金利上昇 | 変動金利などで金利が上がり、返済額や利息負担が増える | 固定金利や固定期間の選択、金利上昇を織り込んだ返済計画、繰上返済 |
| 災害・老朽化 | 地震・火災・水害の損害や、経年劣化による修繕費の増加 | 火災保険・地震保険、修繕費の積立、ハザードマップの確認 |
| 売却・流動性 | 想定した価格で売れない、売却額が残債を下回る | 出口を見据えた物件選び、返済ペースの管理、築年数と融資期間のバランス |
このほか、家賃の滞納、入居者のトラブル、税制や融資姿勢の変化もあります。ただし、まずは上の4つについて、自分の購入計画でどれが大きく効くのかを見極めることが出発点です。
空室・家賃下落リスク
家賃が唯一の収入である不動産投資では、空室が続くと、ローンの返済や固定資産税などの支出だけが残ります。空室リスクの大きさは、エリアの賃貸需要、築年数や設備、家賃の設定、管理会社の募集力などで変わります。
エリアの需要を長期で見る
人口や世帯数が減るエリアでは、長期的に賃貸の需要が細る可能性があります。国立社会保障・人口問題研究所の2024年推計では、日本の世帯総数は2020年の約5,570万世帯から増えて2030年に約5,773万世帯でピークを迎え、その後は減少に転じる見通しです。全国の合計では当面増えても、エリアによって状況は大きく異なります。
購入前には、次の点を確認します。
- 駅からの距離や、大学・企業・商業施設など、入居者が集まる理由があるか
- 同じ条件の賃貸物件の募集状況、募集期間、家賃相場はどうか
- 周辺で大きな建物の閉鎖や、新たな賃貸物件の供給が予定されていないか
- 築年数が進んだときの家賃の下がり方を、周辺の物件で確認できるか
空室率が収支に与える影響(仮の例)
空室の影響を数字で見ます。次の仮の前提で計算します。
- 物件価格5,000万円、満室時の年間家賃450万円(表面利回り9.0%)
- 運営経費は年90万円で固定と仮定(固定資産税、管理費、保険料など。空室でも経費はかかります)
- 借入4,500万円、金利2.0%、25年の元利均等返済(年間返済額は約229万円)
| 空室率(仮の例) | 年間の家賃収入 | 経費を引いた収入 | 年間の手残り | 返済余裕率(DSCR) |
|---|---|---|---|---|
| 0%(満室) | 450万円 | 360万円 | 約131万円 | 約1.57 |
| 10% | 405万円 | 315万円 | 約86万円 | 約1.38 |
| 20% | 360万円 | 270万円 | 約41万円 | 約1.18 |
| 30% | 315万円 | 225万円 | 約▲4万円 | 約0.98 |
空室率が30%になると、手残りがマイナスになります。実際には、複数戸の物件では、1室の空室で収入が全部なくなるわけではありません。一方、1戸だけの物件では、空室の間の収入はゼロになります。購入前に、自分の物件がどの程度の空室まで耐えられるかを把握しておく必要があります。
家賃は下がる前提で考える
築年数が進むと、同じ物件でも新築時より家賃を下げないと入居が決まりにくくなる傾向があります。購入時点の家賃だけでなく、数年後、10年後の家賃も、保守的に見込んで収支を組みます。
たとえば、さきほどの前提(満室時の家賃450万円、経費90万円、返済229万円)で、家賃が毎年1%ずつ下がると仮定します。経費と返済は変わらないものとして、手残りの変化を見ます。
| 経過年数(仮の例) | 年間の家賃 | 年間の手残り |
|---|---|---|
| 1年目 | 450万円 | 約131万円 |
| 5年目 | 約432万円 | 約113万円 |
| 10年目 | 約411万円 | 約92万円 |
| 20年目 | 約372万円 | 約53万円 |
家賃の下落は小さく見えても、積み重なると手残りを大きく減らします。実際には、経費も物価や修繕で増える可能性があるため、手残りはさらに減ることがあります。
戸数による分散の効果
空室の影響の大きさは、1つの物件に何戸あるかでも変わります。各戸の家賃が同じだと仮定して、1戸が空室になったときに、家賃収入が何%減るかを比べます。
| 物件の戸数(仮の例) | 1戸が空室のときの家賃収入の減少 | 備考 |
|---|---|---|
| 1戸(戸建・区分) | 100% | 空室の間は収入がゼロです |
| 4戸 | 25% | 1戸の空室なら収入の4分の3が残ります |
| 10戸 | 10% | 複数戸が同時に空いても、影響が緩やかです |
戸数が多い物件は、空室の影響が分散される一方、物件価格や借入額は大きくなります。また、全戸が同じ時期に退去する、地域全体で需要が落ちる、といった場合には、分散の効果は限られます。分散は、空室のリスクを減らす手段の一つですが、リスクをなくすものではありません。
金利上昇リスク
融資を使う場合、金利は返済額に直接影響します。特に変動金利は、市場金利の変化に応じて見直されます。
日本銀行は、2026年9月18日の金融政策決定会合で、無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導目標を1.25%程度に引き上げることを決めました。政策金利の動きは、金融機関の貸出金利にも影響する可能性があります。ただし、貸出金利の決まり方や見直しのルールは金融機関ごとに異なるため、実際の条件は、借入を検討している金融機関で確認する必要があります。
金利が上がったときの返済額(仮の例)
借入4,500万円、25年の元利均等返済で、金利だけを変えた場合の返済額を比べます。
| 金利(仮の例) | 毎月の返済額 | 年間の返済額 | 2.0%との差(年間) |
|---|---|---|---|
| 1.5% | 約18.0万円 | 約216万円 | ▲約13万円 |
| 2.0% | 約19.1万円 | 約229万円 | 基準 |
| 3.0% | 約21.3万円 | 約256万円 | +約27万円 |
| 4.0% | 約23.8万円 | 約285万円 | +約56万円 |
金利が2.0%から4.0%に上がると、年間の返済額は約56万円増えます。さきほどの空室の例で、満室時の年間手残りが約131万円でしたから、金利上昇だけで手残りは約75万円と、4割余り減ります。空室率が20%の場合は、約41万円の手残りが金利4.0%で約▲15万円となり、赤字になります。
金利リスクへの備え方
- 固定金利、または固定期間のある金利タイプを選ぶ(金利タイプごとの特徴は、別の記事で整理したとおりです)
- 金利が1〜2%上がっても赤字にならないか、購入前に試算する
- 繰上返済の余力と、数か月分の返済額に当たる現金を確保しておく
返済額が増えたときに備えて、手元に数か月分の返済額に当たる現金を置いておくと、収入が一時的に減っても返済を続けやすくなります。上の例では、毎月の返済額は約19万円から最大で約24万円ですから、半年分で約115万〜143万円が目安の一つになります。
固定金利は、金利上昇には強い一方、借入当初の金利は変動金利より高い場合があります。どちらが合うかは、返済期間、手元資金、収支の余裕によって変わります。
融資を使うほど重要になるストレステスト
融資を使うと、少ない手元資金で大きな物件を取得でき、投資の効率を高められます。一方、家賃が減っても返済額は変わりません。そのため、空室や金利上昇の影響が、自己資金だけで買う場合より大きくなります。
購入前に、悪い場合の数字を試算するストレステストが欠かせません。目安として、次の3つを確認します。
- 空室: 満室想定から2〜3割の家賃減でも返済できるか
- 金利: 1〜2%程度の上昇で、キャッシュフローが赤字にならないか
- 修繕: 屋根・外壁・給排水など大きな修繕を、手元資金で賄えるか
返済に対する収入の余裕を測る指標として、DSCR(返済余裕率)があります。経費を引いた収入を年間返済額で割った値で、1を下回ると、収入で返済を賄えない状態です。さきほどの空室率30%の例が約0.98で、1を下回っています。どの水準を安全と見るかは、金融機関や物件によって異なるため、DSCRの詳しい見方は別の記事を参照してください。
災害・老朽化への備え
日本は地震・台風・水害が多く、建物は必ず経年で劣化します。突発的な損害には保険で、計画的な修繕には積立で備えるのが基本です。
火災保険と地震保険
火災保険は、火災だけでなく、風災・雪災・水災などの補償を含む商品があります。補償の範囲は商品や契約プランによって異なり、水災を付けられない商品もあります。契約時に、補償される災害の種類、免責金額、水災の支払い条件を確認します。
地震は、火災保険では補償されません。財務省の説明では、火災保険では地震を原因とする火災による損害や、地震により延焼・拡大した損害は補償されず、地震・噴火・津波による火災、損壊、埋没、流失は地震保険で補償されます。
| 項目 | 内容(財務省の説明) |
|---|---|
| 保険金額の設定 | 火災保険の保険金額の30%〜50%の範囲内。建物は5,000万円、家財は1,000万円が限度 |
| 全損 | 保険金額の100%(時価額が上限) |
| 大半損 | 保険金額の60%(時価額の60%が上限) |
| 小半損 | 保険金額の30%(時価額の30%が上限) |
| 一部損 | 保険金額の5%(時価額の5%が上限) |
地震保険の保険金額は、火災保険の30〜50%の範囲に限られるため、建物の被害を全額まかなうものではありません。入居者の家財は、入居者が自分で保険に加入するのが一般的です。賃貸の場合、建物は貸主(所有者)が、家財は借主が、それぞれ加入するのが基本です。
ハザードマップで購入前に確認する
国土交通省・国土地理院が運営するハザードマップポータルサイトでは、洪水浸水想定区域、内水浸水想定区域、高潮浸水想定区域、津波浸水想定、土砂災害警戒区域などを確認できます。購入前に、物件の所在地がどの区域に入るかを調べます。浸水の想定がある場合は、水災の補償や、上階への入居の需要など、収支への影響を考えます。
修繕費の積立
屋根、外壁、給排水、設備には、いずれ修繕の時期が来ます。毎月の収支から、修繕のための資金を分けておく運用が基本です。
たとえば、屋根と外壁の大規模な修繕に300万円(仮の例)かかり、15年ごとに必要になると考えると、1年あたり20万円、1か月あたり約1.7万円を積み立てる計算になります。この積立は、年間の手残りから先に引いて考えます。積立を考えずに手残りを見ると、実際の収支より良く見えてしまいます。古い物件は購入価格が安い反面、修繕が早く必要になる可能性があります。価格だけで比べず、修繕を含めた総コストで比較します。
売却・出口のリスク
不動産は、株式のように速やかに現金化できません。買い手が見つからない、想定より安くしか売れない、といったことがあります。融資を使っている場合は、売却額が残債を下回ると、差額を自己資金で補う必要があります。
残債割れの例(仮の例)
先ほどの借入(4,500万円、金利2.0%、25年返済)で、5年後に売却する場合を考えます。5年後の残債は約3,770万円です。売却にかかる費用を売却価格の約4%と仮定し、売却価格が変わったときの手元のお金を比べます。
| 売却価格(仮の例) | 売却費用を引いた額 | 残債を返済した後 |
|---|---|---|
| 5,000万円 | 約4,800万円 | 約1,030万円 |
| 4,500万円 | 約4,320万円 | 約550万円 |
| 4,000万円 | 約3,840万円 | 約70万円 |
| 3,500万円 | 約3,360万円 | 約▲410万円 |
売却価格が3,500万円まで下がると、約410万円を自己資金で補う必要があります。築年数が進むと、買い手が融資を受けにくくなり、売却価格が下がりやすくなります。返済を進めて残債を減らしておくほど、売却時の選択肢が広がります。
売却時の税金
売却して利益(譲渡所得)が出ると、税金がかかります。国税庁の案内では、土地・建物の譲渡所得の税率は、譲渡した年の1月1日現在の所有期間で分かれます。
| 所有期間 | 税率 |
|---|---|
| 5年を超える(長期譲渡所得) | 所得税15%、住民税5%(復興特別所得税として所得税額の2.1%が別にかかり、合計20.315%) |
| 5年以下(短期譲渡所得) | 所得税30%、住民税9%(復興特別所得税を加えて合計39.63%) |
所有期間の判定は、売却した日ではなく、譲渡した年の1月1日です。売却の時期を決めるときは、手取りで考えます。購入の時点で、いつ・いくらで売れそうか、そのときの残債はいくらかを、あらかじめ試算しておくことが勧められます。
ほかに押さえておきたいリスク
入居者・物件に関するリスク
家賃の滞納、近隣トラブル、設備の故障、原状回復の費用負担などは、運営の中で起こりえます。滞納への備えは別の記事で扱います。物件で人の死があった場合の告知の取扱いについては、国土交通省が「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(令和3年10月)で考え方を示しています。取引の際は、貸主や売主からの告知書の記載を確認します。
制度や融資姿勢の変化
税制、融資の条件、金融機関の貸出姿勢は、変わることがあります。購入時にはその時点の条件で計画できても、将来の借り換えや売却時の条件が同じとは限りません。計画は、条件が悪くなった場合にも成り立つかを確認して組みます。
契約と物件の法的リスク
購入した物件に、引き渡し後に契約の内容に適合しない点が見つかった場合の責任(契約不適合責任)の扱いは、契約書で定められます。特に個人が売主の場合、責任の範囲を限定する特約が付くことがあります。契約書と重要事項説明書の内容は、購入前に確認します。
購入前にリスクを洗い出す手順
- 物件のリスクを調べる: 登記簿、ハザードマップ、周辺の賃貸需要、修繕の履歴を確認します。
- 収支を保守的に試算する: 空室、金利上昇、修繕費を織り込み、複数のシナリオで計算します。
- 融資条件を比較する: 金利タイプ、返済期間、自己資金の割合を、複数の金融機関で確認します。
- 保険と資金の備えを決める: 火災保険・地震保険、修繕の積立、予備資金を、計画に組み込みます。
- 出口を想定してから購入を決める: 売却価格、残債、税金を見積もり、無理のない範囲かを判断します。
書類だけでは分からない近隣の状況や過去のトラブルの有無は、現地での確認や、所有者・管理会社へのヒアリングで補います。
リスク別の確認リスト
| リスク | 購入前に見る資料・情報 | 見る数字 |
|---|---|---|
| 空室・家賃下落 | 周辺の募集状況、賃貸需要、現況のレントロール | 満室想定からの家賃減少率、空室期間 |
| 金利上昇 | 融資条件、金利タイプ、返済予定表 | 金利が1〜2%上がったときの返済額、DSCR |
| 災害・老朽化 | ハザードマップ、保険の見積もり、修繕履歴 | 保険料、修繕の積立額、大規模修繕の時期 |
| 売却・出口 | 周辺の売却事例、築年数と融資期間の関係 | 売却時の残債と売却価格の差、売却時の税金 |
リスクを学び、判断力を高めるには
リスクを見積もれる範囲は、知識と経験が増えるほど広がります。公的機関の資料(国税庁、財務省、国土交通省、日本銀行、各自治体など)は、無料で読めて信頼性が高く、制度の確認に役立ちます。税務や融資の具体的な判断は、税理士や金融機関などの専門家に確認する方法があります。
判断を誤ると影響の大きい取引だからこそ、購入前に基礎を固め、数字で確かめる習慣をつけることが大切です。
よくある質問
Q. 不動産投資で最も大きいリスクは何ですか?
A. 物件や条件によって異なります。融資を使っている場合は、空室や金利上昇の影響が大きく出やすくなります。まず、自分の購入計画で、どのリスクが収支に大きく効くのかを数字で確認することが出発点です。
Q. 空室を減らすには、どうすればよいですか?
A. 需要のあるエリアと物件を選ぶ、家賃を相場に合わせる、管理会社の募集力を確認する、といった方法があります。購入前に、周辺の募集状況と空室期間を調べることが大切です。
Q. 火災保険に入っていれば、地震の被害も補償されますか?
A. 地震・噴火・津波による損害は、火災保険では補償されず、地震保険で補償されます。地震保険は、火災保険の保険金額の30〜50%の範囲で設定します。契約内容は、保険会社で確認してください。
Q. 金利が上がったら、売却したほうがよいですか?
A. 一概には言えません。売却は、残債、売却価格、税金、売却にかかる費用で、手元に残る額が変わります。売却と保有を続ける場合を、手取りで比べて判断します。
Q. リスクを避けるために、現金で買うほうがよいですか?
A. 現金で買うと、金利上昇や返済のリスクはなくなりますが、空室、災害、老朽化、売却のリスクは残ります。また、投資の効率は、融資を使う場合より低くなることがあります。自分の資金力と目的に合わせて検討します。
まとめ
不動産投資の主なリスクは、空室・家賃下落、金利上昇、災害・老朽化、売却時の価格下落の4つです。この記事の仮の例では、満室なら年131万円の手残りがある物件でも、空室率30%で赤字に、金利が4%に上がると手残りが約75万円に減り、5年後に3,500万円まで下がると約410万円の持ち出しになりました。
- 悪い場合の数字を、購入前に試算する(空室、金利、修繕)
- 保険、積立、予備資金で、備えを用意する
- 出口を想定し、残債と売却価格、税金を確認してから購入を決める
制度や数値は改正されることがあるため、国税庁、財務省、国土交通省、日本銀行、金融機関、税理士などで最新の内容を確認してください。
※本記事は一般的な情報の提供を目的としたものであり、特定の投資・融資・税務上の判断を勧めるものではありません。制度や数値は記事作成時点の一般的な内容です。個別の判断は、金融機関・税理士などの専門家にご確認ください。
最終更新:2026年10月
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