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金利上昇と収入減のストレステスト|DSCRで見る返済の耐久力

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金利上昇と収入減のストレステスト

金利が上がると、変動金利の返済額が増えます。そこに空室や家賃の下落が重なると、家賃収入で返済をまかなえなくなるかもしれません。購入前に「条件が悪くなったとき、返済は続けられるか」を数字で確かめる作業が、ストレステストです。この記事では、返済の余裕を測る指標であるDSCR(債務償還余裕率)を使って、金利上昇と収入減が重なったときの耐久力を、仮の数字で確認する手順を整理します。

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積み上げられたコイン

なぜ今、ストレステストが必要なのか

日本銀行は、2026年9月18日の金融政策決定会合で、無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導目標を、従来の「1.0%程度」から「1.25%程度」に引き上げることを決めました(新しい方針は9月24日から適用)。同じ決定の説明資料では、経済・物価・金融情勢に応じて、引き続き政策金利を引き上げていく方針も示されています。

政策金利が上がると、金融機関の短期の調達コストが上がり、変動金利の貸出金利にも影響しやすくなります。変動金利の決まり方は別の記事で整理したとおりですが、重要なのは、将来の金利を当てることではありません。借入を決める時点で、「金利が今より1〜3ポイント上がっても返済できるか」を確認し、耐えられる物件と借入額だけを選ぶことです。

ストレステストは、金融機関が審査で行うだけの作業ではありません。借りる側が自分で行うことで、次のような判断がしやすくなります。

  • 借入額や返済期間を、いくらまでに抑えるべきかが分かる。
  • 変動金利にするか、固定金利にするか、どの金利タイプが自分に合うかを比較できる。
  • 手元に残しておくべき現金(予備資金)の目安が分かる。
  • 購入後に条件が悪化したとき、どの順序で手を打つかを事前に決められる。

DSCR(債務償還余裕率)とは

DSCRは、物件が生み出す年間の収益で、年間の借入返済額を何倍まかなえるかを示す指標です。一般には、次の式で表します。

DSCR = 年間のNOI(営業純収益) ÷ 年間の元利返済額
NOIは、年間の満室想定でなく「実際に入る見込みの家賃収入」から、運営にかかる費用(管理費、固定資産税・都市計画税、保険料、修繕費、更新手数料など)を引いた額です。減価償却費と借入の返済額は、NOIの計算には含めません。

DSCRが1.0なら、家賃収入から運営費を引いた額が、そのまま返済額と同じです。1.0を下回ると、返済のために手元の資金を持ち出す必要があります。金融機関が融資審査で求める水準は、物件の種類や金融機関の方針によって異なり、公的な基準はありません。1.2〜1.3倍以上を一つの目安とする考え方が紹介されることがありますが、あくまで目安で、必ずその数字になるわけではありません。

また、DSCRの定義は、金融機関や解説書によって少しずつ異なります。たとえば、分子に税引前の営業キャッシュフローを使う場合や、減価償却費を足し戻す場合など、さまざまな形があります。ここでは、考え方を理解しやすいNOIベースで説明します。金融機関に相談するときは、その金融機関がどの定義を使っているか、確認してください。

NOIの出し方と、返済額に含めるもの

DSCRの精度は、NOIの精度で決まります。国税庁のタックスアンサー(No.1370)では、不動産所得の必要経費として、固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費などが挙げられています。一方、借入金の返済額のうち元本に相当する部分は、必要経費になりません(国税庁の確定申告書等作成コーナーの説明による)。借入金の利子は、賃貸用の建物を取得するためのものであれば必要経費になります。この違いが、あとで述べる「利益は出ているのに現金が足りない」状態につながります。

項目 NOIの計算に入れるか 補足
満室想定の年間家賃 入れる(空室・滞納を差し引いた実収入で) 実際に入る見込みの収入で計算する。
管理委託費・入居者募集費 入れる(費用) 家賃に対する割合で決まることが多い。
固定資産税・都市計画税 入れる(費用) 評価替えや負担調整措置で変わることがある。
損害保険料 入れる(費用) 更新時に保険料が上がる場合がある。
修繕費・原状回復費 入れる(費用) 築年数が進むほど増える傾向。年平均で見込む。
減価償却費 入れない 現金が出ていかない費用。税金の計算では経費になる。
借入金の利子 入れない(返済額側に含める) NOIはあくまで物件の収益力を測る。
借入金の元本返済 入れない(返済額側に含める) 必要経費にならないが、現金は出ていく。

仮の例:金利上昇と空室の影響を見る

前提条件を置く

以下は、考え方を示すための仮の例です。実在の物件や金融機関の条件ではありません。数字は万円単位で、年額です。

項目 仮の条件
物件の種類 一棟の賃貸アパート(仮)
借入額 9,000万円
返済方法・期間 元利均等返済、25年(300回)
満室想定の年間家賃 1,100万円
運営費(管理費・固定資産税・保険・修繕など) 年250万円(空室率が変わっても一定と仮定)
基準の空室率 5%(実収入1,045万円)
基準の金利 年2.0%

基準の条件でNOIを計算すると、1,100万円×(1−5%)−250万円=795万円です。年間の元利返済額は約457.8万円(月々約38.1万円)なので、DSCRは795万円÷457.8万円=約1.74です。手元に残る額(返済後)は、年に約337.2万円となります。この数字が、ストレステストの出発点です。

実際の運営費は、管理委託費のように家賃に連動する項目と、固定資産税のように連動しない項目が混ざっています。この仮の例では計算を簡単にするため、運営費を年250万円の一定としています。実際に検討する物件では、項目ごとに分けて試算してください。

金利が上がったとき、DSCRはどう変わるか

まず、空室率を10%に置いて、金利だけを動かします。残りの返済期間を25年として、各金利で返済額を計算し直した仮の例です(NOIは740万円)。

金利 年間返済額 基準(2.0%)との差 DSCR 返済後の手残り(年)
2.0% 約457.8万円 ― 約1.62 約282.2万円
3.0% 約512.1万円 +約54.3万円 約1.44 約227.9万円
4.0% 約570.1万円 +約112.3万円 約1.30 約169.9万円
5.0% 約631.4万円 +約173.6万円 約1.17 約108.6万円

金利が2%から4%に上がると、返済額は年に約112万円増え、DSCRは1.62から1.30に下がります。金利が3ポイント上がって5%になると、手残りは約282万円から約109万円に減ります。この例では、まだ赤字にはなりませんが、余裕は大きく削られます。さらに空室や修繕が重なれば、赤字になる可能性があります。

空室や家賃の下落が起きたとき

次に、金利を2.0%に固定して、空室率を動かします。

空室率 実収入 NOI DSCR
5% 1,045万円 795万円 約1.74
10% 990万円 740万円 約1.62
15% 935万円 685万円 約1.50
20% 880万円 630万円 約1.38
25% 825万円 575万円 約1.26
30% 770万円 520万円 約1.14

運営費が一定であるため、空室が増えるとNOIは家賃の減少額と同じだけ減ります。この例では、空室率30%でもDSCRが1.0を上回っていますが、これは金利が低く、返済額が小さい前提だからです。金利が上がると、同じ空室率でも余裕がなくなります。

家賃の下落も同じように効きます。築年数が進むと、募集家賃を下げざるを得ない場合があります。空室率とは別に、「家賃水準が5〜10%下がった場合」も試算しておくと、より現実に近いテストになります。

金利上昇と空室を組み合わせたテスト

実際に起きやすいのは、複数の条件が同時に悪化するケースです。金利と空室率を組み合わせたDSCRの一覧が次の表です(仮の例。借入9,000万円、25年、満室想定家賃1,100万円、運営費250万円)。

金利 \ 空室率 5% 10% 20%
2.0% 約1.74 約1.62 約1.38
3.0% 約1.55 約1.44 約1.23
4.0% 約1.39 約1.30 約1.11
5.0% 約1.26 約1.17 約1.00

金利5%・空室率20%の組み合わせでは、DSCRが約1.00になり、手残りがほぼゼロになります。ここに家賃の下落や大きな修繕が加わると、持ち出しが発生します。次に、いくつかのシナリオを並べて、手残りの変化を確認しましょう。

シナリオ 条件 NOI 年間返済額 DSCR 手残り(年)
A 基準 家賃1,100万円、空室5%、金利2% 795.0万円 457.8万円 約1.74 +337.2万円
B 穏やかな悪化 空室10%、金利3% 740.0万円 512.1万円 約1.44 +227.9万円
C 厳しい悪化 家賃10%下落(990万円)、空室15%、金利4% 591.5万円 570.1万円 約1.04 +21.4万円
D 非常に厳しい 家賃10%下落、空室20%、金利5% 542.0万円 631.4万円 約0.86 −89.4万円

シナリオCは黒字ですが、手残りが年約21万円と、ほとんど余裕がありません。シナリオDは、年約89万円の持ち出しになります。ストレステストの目的は、悪い数字を見て怖がることではありません。どの水準で赤字になるかを知り、そこに至る前にどう動くかを決めておくことです。

逆算する:どこまで耐えられるか

もう一つ有効なのが、DSCRを一定の水準に保てる限界を逆算する方法です。空室率10%(NOI740万円)で、借入9,000万円・25年とした仮の例では、次のとおりです。

DSCRの水準 耐えられる金利の上限(目安)
1.0(返済額とNOIが同じ) 約6.66%
1.2 約4.77%
1.3 約3.99%
1.5 約2.66%

金利を固定して、耐えられる空室率を逆算することもできます。

金利 DSCR 1.0 になる空室率 DSCR 1.2 になる空室率 DSCR 1.3 になる空室率
3.0% 約30.7% 約21.4% 約16.7%
4.0% 約25.4% 約15.1% 約9.9%

同じ物件でも、金利が3%から4%に上がるだけで、DSCR 1.2を保てる空室率の上限は、約21.4%から約15.1%に下がります。また、損益分岐入居率(運営費と返済額の合計を満室想定家賃で割った値)は、金利2%で約64.3%、金利4%で約74.6%です。入居率がこの水準を下回ると、収支が赤字になります。

NOTE 上の数字は、運営費を一定とした仮の計算です。実際には、空室が増えると入居者募集費が増えたり、退去後の原状回復費が重なったりするため、悪化の幅がこれより大きくなる場合があります。

返済期間と変動金利のルールの影響

返済期間を変えると、DSCRはどう変わるか

返済期間を延ばすと、毎年の返済額は小さくなり、DSCRは改善します。借入9,000万円、NOI740万円の仮の例で比べます。

返済期間 年間返済額(金利2%) DSCR(金利2%) 年間返済額(金利4%) DSCR(金利4%)
20年 約546.4万円 約1.35 約654.5万円 約1.13
25年 約457.8万円 約1.62 約570.1万円 約1.30
30年 約399.2万円 約1.85 約515.6万円 約1.44
35年 約357.8万円 約2.07 約478.2万円 約1.55

返済期間が長いほど、DSCRは良くなります。ただし、期間を延ばすと総支払利息が増え、元本が減るスピードも遅くなります。また、金融機関は建物の法定耐用年数などを参考に、融資期間の上限を決めるのが一般的です。返済期間と耐用年数の関係は、別の記事で詳しく整理します。

変動金利の「5年ルール」「125%ルール」に頼りすぎない

住宅ローンの変動金利型では、金利が上がっても返済額が5年間変わらない「5年ルール」や、見直し後の返済額が従前の1.25倍までに抑えられる「125%ルール」を採用している金融機関があります。これらのルールは、返済額の急な増加を抑える一方で、金利が大きく上がると、返済額のうち利息を払いきれない「未払利息」が発生する場合があります。

不動産投資用のローンでは、こうしたルールの有無や内容が金融機関・商品によって異なります。契約前に、商品概要説明書や契約書で、返済額の見直しの方法を確認してください。ストレステストでは、ルールの有無にかかわらず、「適用金利が上がったときの本来の返済額」で計算しておくのが安全です。

税金も含めた手残りで確認する

DSCRは税引前の指標ですが、実際に手元に残るのは、税金を払った後の金額です。不動産所得は、収入から必要経費(固定資産税、保険料、減価償却費、修繕費、借入金の利子など)を引いて計算されます。元本の返済は経費にならないので、元本返済が大きい物件では、会計上の利益は出ているのに、税金を払うと手元の現金が少なくなることがあります。

仮の例で見てみましょう。金利3.0%、空室率10%(NOI740万円)で、1年目の借入金の利子が約267万円、減価償却費が150万円とします。不動産所得は、740万円−267万円−150万円=323万円です。この所得に所得税・住民税を合わせて30%(仮)がかかると、税額は約97万円です。返済後の手残りが約227.9万円なので、税引後の手残りは約131万円になります。

税率は、他の所得との合計や、控除の状況で変わります。実際の税額は、税理士に確認してください。ここでは、返済後の手残りと税引後の手残りが違うことを押さえておけば十分です。

ストレステストの進め方

実際の物件で試算するときは、次の順序で進めると、抜けが減ります。

  1. 物件の募集資料の収支(表面の収入)でなく、直近の実績の家賃とレントロールから、実収入を見積もる。
  2. 運営費を項目ごとに書き出し、家賃に連動する項目と連動しない項目に分ける。
  3. 借入額・金利・期間から、元利返済額を計算する(元利均等か元金均等かも確認する)。
  4. 基準ケースのDSCRと手残りを出す。
  5. 金利を+1ポイント、+2ポイント、+3ポイント上げた場合を試算する。
  6. 空室率を10%、20%、30%にした場合と、家賃が5〜10%下がった場合を試算する。
  7. 金利上昇と空室・家賃下落を組み合わせ、DSCR 1.0を下回る条件を確認する。
  8. 大きな修繕(屋根・外壁・給排水など)が出たときに、手元資金で何か月・何年耐えられるかを確認する。

各ステップの結果を表にしておくと、金融機関に相談するときや、購入の可否を判断するときの根拠になります。

悪化への備え:購入前に決めておくこと

ストレステストで余裕が小さいと分かった場合は、条件を見直します。主な対策は、次のとおりです。

  • 借入額を減らす:自己資金を増やす、または物件価格の交渉をする。借入額が小さいほど、金利の影響も小さくなる。
  • 金利タイプを見直す:一定期間の固定金利や、固定と変動の組み合わせを検討する。固定金利は当初の金利が高めになる場合があるので、DSCRの試算に反映する。
  • 返済期間を調整する:返済期間を延ばせば毎年の返済額は減るが、総支払額が増えることを理解する。
  • 予備資金を確保する:返済額の6〜12か月分以上を目安に、すぐ使える現金を残す(目安であり、物件や状況により必要額は異なる)。
  • 繰上返済の方針を決める:金利が上がったときに、繰上返済で元本を減らすのか、手元の現金を厚くするのかを、あらかじめ決めておく。
  • 物件を選び直す:基準ケースでも余裕が小さいなら、立地・築年数・家賃水準が異なる物件への切り替えを検討する。

繰上返済と再投資の考え方は、別の記事で整理したとおりです。金利上昇局面では、手元の現金を厚く保つほうが、選択肢が広がる場合もあります。

よくある質問

Q. DSCRはいくつあれば安心ですか。

A. 公的な基準はなく、金融機関や物件の種類によって異なります。1.2〜1.3倍以上を目安とする考え方もありますが、数字だけで安心とは言えません。金利が上がったときや空室が増えたときに、どこまで下がるかを確認することが大切です。

Q. 固定金利で借りれば、ストレステストは不要ですか。

A. 金利上昇の影響は避けられますが、空室、家賃下落、修繕費の増加には備える必要があります。また、固定金利の期間が終わったあとの金利見直しについても、確認しておきましょう。

Q. 金利は、どの程度の上昇まで見ておけばよいですか。

A. 決まった数字はありません。現在の金利に1〜3ポイント上乗せして試算する方法が、よく使われます。借入額が大きい、または変動金利で借りる場合は、幅を広めにとることをおすすめします。

Q. 金融機関の審査で通るなら、自分でテストしなくてもよいですか。

A. 金融機関の審査は、貸し出すリスクの観点からの確認です。借りる側が、自分の資金計画に無理がないかを確認する作業とは目的が異なります。自分で試算することをおすすめします。

Q. 築古の物件は、ストレステストで何を重視すべきですか。

A. 修繕費の増加と、家賃の下落です。修繕費は年平均で見込み、大きな修繕が出たときの手元資金も確認してください。築古戸建ての融資の考え方は、別の記事で整理したとおりです。

まとめ

金利上昇と収入減のストレステストは、購入前に返済の耐久力を数字で確認するための作業です。この記事のポイントを整理します。

  • 日本銀行は2026年9月18日に政策金利を1.25%程度へ引き上げ、今後も金利が変動する局面に備える必要がある。
  • DSCRは、年間のNOIを年間の元利返済額で割った指標で、1.0を下回ると持ち出しが発生する。
  • 金利上昇と空室・家賃下落を組み合わせて試算し、DSCR 1.0を下回る条件を把握する。
  • 耐えられる金利や空室率を逆算しておくと、購入の可否と借入額の判断がしやすい。
  • 返済期間の延長はDSCRを改善するが、総支払額が増える。
  • DSCRは税引前の指標のため、税引後の手残りと、元本返済が経費にならない点も確認する。

制度や数値は改正されることがあるため、最終的な判断の前に、日本銀行、国税庁、金融機関、税理士などの専門家に確認してください。

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※本記事は一般的な情報の提供を目的としたものであり、特定の投資・融資・税務上の判断を勧めるものではありません。制度や数値は記事作成時点の一般的な内容です。個別の判断は、金融機関・税理士などの専門家にご確認ください。

最終更新:2026年10月

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