
会社員が不動産投資を副業として始めるとき、物件選びや融資の前に確認しておくことがあります。勤務先の就業規則、確定申告と住民税、規模が大きくなったときの扱い、本業と両立できる運営体制です。この記事では、会社員が不動産投資を始める手順を順番に整理し、それぞれの場面で注意したい点を、仮の数字を使って確認します。

会社員が不動産投資を始めるメリットと注意点
会社員は、不動産投資を始めるうえで、いくつかの点で有利な立場にあります。一方で、本業があるからこそ気をつけたい点もあります。
| 項目 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 収入面 | 毎月の給与収入があり、家賃収入が減っても生活と返済を続けやすい。金融機関から見ても、返済原資の一つとして評価されやすい | 給与収入があることを前提に借入をしすぎると、収入が減ったときに返済が重くなる |
| 時間面 | 管理会社へ委託すれば、日常の管理に使う時間を抑えられる | 購入前の調査や、金融機関との面談、入居者のトラブル対応などで、一定の時間は必要になる |
| ルール面 | 副業を認める企業が増えている | 就業規則で、副業や不動産賃貸の扱いが決められている場合がある |
| 税金面 | 給与所得と不動産所得を合わせて申告できる | 確定申告、住民税の扱いなど、手続きが増える |
会社員の強みは「安定した給与」と「時間の制約がある中で仕組みを作る必要がある」という点の両方にあります。本業に支障を出さないために、管理の仕組みを先に決めておくことが、続けるための条件になります。
始める前に確認する就業規則と社内ルール
最初に確認するのは、勤務先の就業規則です。副業や兼業について、禁止、許可制、届出制のいずれかが定められていることが一般的です。
国のルールは、副業・兼業を認める方向
厚生労働省は、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」で、副業・兼業を原則として認める方向が適当としています。モデル就業規則は、以前の許可制から届出制に改められました。労働者は、副業先が決まったら、会社の就業規則で定められた方法に従って届け出る必要があり、会社が許可制をとっている場合は、事前に許可を受ける必要があります。
企業が副業を制限できるのは、労務提供上の支障、企業秘密の漏えい、会社の名誉や信用を損なう行為、競業による企業の利益の侵害などがある場合とされています(厚生労働省のモデル就業規則の考え方)。不動産賃貸が副業にあたるか、届出の対象になるかは、会社の規程によって異なります。規程の文言が分かりにくい場合は、人事・総務部門に確認するのが確実です。
公務員は、会社員より厳しい基準がある
国家公務員の場合は、人事院規則14-8(営利企業の役員等との兼業)の運用通知に、不動産の賃貸が「自営」にあたる基準が定められています。人事院の通知(最終改正は令和7年12月19日)では、独立家屋が5棟以上、独立家屋以外の建物で独立して区画された部分が10室以上、土地の賃貸契約が10件以上、駐車場が10台以上、賃貸料収入が年額1,000万円以上(建物のみで床面積の合計が600平方メートル未満の場合を除く)といった基準が示されています。これらに当たると、承認が必要になります。
地方公務員は、自治体ごとに規程や運用が異なります。公務員の方は、検討の初期の段階で、所属先の人事担当に確認してください。なお、自営兼業制度は令和8年4月1日から見直しの制度が施行されたと人事院が発表しているため、最新の取扱いも確認が必要です。
税金の基本:確定申告が必要になるのはいつか
会社員は、通常は年末調整で所得税が精算されるため、確定申告をしません。しかし、不動産賃貸による所得がある場合は、一定の金額を超えると確定申告が必要になります。
20万円のルール
国税庁の案内では、給与を1か所から受け、その全額が源泉徴収の対象になっている場合、給与所得と退職所得以外の各種所得の合計額が20万円を超える人は、確定申告が必要です。不動産所得も、この「各種所得」に含まれます。ここでいう所得は、家賃収入そのものではなく、収入から必要経費を引いた金額です。
| ケース(仮の例) | 収入 | 必要経費 | 不動産所得 | 所得税の確定申告 |
|---|---|---|---|---|
| A:経費が少ない | 年96万円 | 約55万円 | 約41万円 | 必要(20万円超) |
| B:経費が多く出た | 年96万円 | 約86万円 | 約10万円 | 原則不要(20万円以下) |
| C:赤字になった | 年96万円 | 約110万円 | 約−14万円 | 損益通算で還付を受けるなら申告 |
Aの経費の内訳は、固定資産税等8万円、管理委託費5万円、修繕費6万円、保険料2万円、ローンの利息9万円、減価償却費25万円で、合計55万円としています。Bは、大きな修繕費が出た年を想定しています。
不動産所得にかかる税金と、手元に残る額(仮の例)
Aのケースで、税金を含めた手元の資金を計算してみます。本業の給与などによる課税所得が330万円超695万円以下の範囲にあり、所得税率が20%の帯に入ると仮定します(国税庁タックスアンサーNo.2260の税率表による)。復興特別所得税は所得税額の2.1%、住民税は所得割の標準税率10%として計算します。
- 所得税:41万円 × 20% = 約8.2万円
- 復興特別所得税:8.2万円 × 2.1% = 約0.2万円
- 住民税:41万円 × 10% = 約4.1万円
- 税金の合計:約12.5万円
一方、手元に残る現金は、家賃収入96万円から、現金で支払う経費(固定資産税等8万円、管理委託費5万円、修繕費6万円、保険料2万円、利息9万円の合計30万円)と、ローンの元本返済(仮に年12万円)、税金約12.5万円を引いた、約41.5万円です。減価償却費25万円は、帳簿上の経費で現金の支出ではないため、所得は41万円でも、手元に残る額は大きく違います。この「帳簿上の所得」と「手元の現金」のずれを理解しておくと、税金の支払い時期に資金が足りなくなる失敗を防げます。
ここで大切なのは、「所得税の確定申告が不要」でも、「住民税の申告」は別に必要になる場合がある点です。名古屋市や神戸市などの案内では、住民税には所得税のような申告不要の範囲がないため、給与以外の所得が20万円以下でも、住民税の申告が必要とされています。所得税の確定申告書を税務署に提出していれば、住民税の申告も済んだものとして扱われます。
赤字になった場合
不動産所得が赤字になった場合、給与所得などと損益通算して、源泉徴収された所得税の還付を受けられることがあります。ただし、土地を取得するための借入金の利息など、通算の対象外となる部分があります。この点は、別の記事で整理した損益通算の例外のとおりです。還付を受ける場合は、確定申告が必要になります。
申告の時期
確定申告の期限は原則として翌年3月15日です。住民税の申告も、1月1日時点の住所の市区町村に、同じ時期までに行う扱いが一般的です。物件を購入した年から、収支を管理する帳簿をつけ、領収書を保管しておくと、申告の時期に慌てずに済みます。
住民税の納め方を確認する
国税庁の確定申告書等作成コーナーの案内によると、給与・公的年金等以外の所得がある場合は、その所得に対する住民税の徴収方法を、「特別徴収(給与から天引き)」または「自分で納付」から選択できます。給与のみの場合は、原則として特別徴収で、選択できません。
- 特別徴収(給与から天引き):不動産所得にかかる住民税も、給与にかかる分とあわせて、毎月の給与から差し引かれる。勤務先を通じて納付される
- 自分で納付:不動産所得にかかる住民税を、納付書などで自分で納める
どちらが選べるか、実際の取扱いは市区町村によって異なる場合があります。詳細は、お住まいの市区町村の税務担当に確認してください。会社に伝えるべきかどうかは、徴収方法とは別に、就業規則の規定に従って判断します。
規模が大きくなったときの区分:事業的規模と個人事業税
不動産の貸付けが「事業」にあたるかどうかで、税金の計算や特典が変わります。国税庁タックスアンサー(No.1373)では、社会通念上事業と呼べる規模かどうかで実質的に判断するとされ、建物の貸付けは、貸間・アパートなどは独立した室数がおおむね10室以上、独立家屋はおおむね5棟以上であれば、原則として事業として扱われます(いわゆる「5棟10室」の基準)。
| 項目 | 事業的規模の場合 | それ以外の場合 |
|---|---|---|
| 青色申告特別控除 | 最高55万円(電子申告などの要件を満たすと65万円) | 最高10万円 |
| 事業専従者の給与・控除 | 適用がある | 適用がない |
| 賃貸用資産の取壊し等の損失 | 全額が必要経費 | 不動産所得を上限とする扱い |
| 家賃の貸倒れ | 回収不能の年の必要経費 | 収入を計上した年にさかのぼって調整 |
会社員の方が持つ物件が、最初から5棟10室に届くことは少ないですが、買い増していくと、この基準に近づきます。基準を超える前後で、有利になる点(控除の拡大)と、新たに生じる負担(個人事業税など)があります。
個人事業税
不動産貸付業は、個人事業税の課税対象になる場合があります。京都府の案内によれば、住宅用の一戸建ては貸付可能な件数が10棟以上、アパートなどは10室以上といった基準が定められ、税率は5%、事業主控除は年額290万円です。基準は都道府県によって異なる場合があるため、物件の所在地の都道府県税事務所に確認してください。
本業と両立するための運営体制
会社員にとって、運営にかけられる時間は限られます。購入前に、「何を自分でやり、何を委託するか」を決めておくと、運営が続けやすくなります。
| 業務 | 委託できるか | 自分で行うこと |
|---|---|---|
| 入居者の募集・客付け | 管理会社・仲介会社に委託できる | 募集条件(家賃、敷金など)の最終判断 |
| 家賃の集金・入金確認 | 管理会社に委託できる(手数料がかかる) | 毎月の入金の確認、収支の記録 |
| クレーム・トラブル対応 | 管理会社に委託できる | 費用がかかる対応の承認 |
| 修繕・設備の交換 | 見積もりの取得や手配は委託できる | 修繕の内容と金額の判断 |
| 確定申告・帳簿 | 税理士に委託できる | 領収書の保管、日々の収支の記録 |
| 融資・金融機関との折衝 | 委託できない | すべて自分で対応する |
委託には費用がかかります。たとえば、家賃収入の5%を管理委託費とすると(仮の例)、年間家賃96万円の物件では年4.8万円です。この費用を、あらかじめ収支に入れ、委託しても収益が成り立つかを確認しておきます。管理会社の選び方は、別の記事で整理したとおりです。
本業が忙しい時期に、入居者の退去や設備の故障が重なることもあります。連絡の窓口を管理会社に決めておくこと、緊急時に対応できる修繕業者との連携ができていることが、本業に支障を出さないための土台になります。
転勤・転職・退職など、本業の変化への備え
不動産は長く持つ資産ですので、保有している間に、本業の状況が変わる可能性があります。変化が起きたときに慌てないよう、あらかじめ考えておく点を整理します。
| 本業の変化 | 起こりうる影響 | 備えの例 |
|---|---|---|
| 転勤・海外赴任 | 物件が遠方になり、現地での対応が難しくなる | 管理会社に委託している範囲を確認する。海外の場合は、連絡手段と、確定申告の扱い(納税管理人など)を税理士に確認する |
| 転職 | 勤続年数がリセットされ、新たな借入や借り換えの審査で不利になることがある | 転職の前に、追加の融資や借り換えの予定があるかを整理する |
| 収入の減少・休職 | 返済と生活費の両立が難しくなる | 生活防衛資金と、物件の予備資金を別に確保する。返済条件の相談先を把握する |
| 退職・独立 | 給与収入がなくなり、家賃収入への依存度が高まる | 家賃収入だけで生活費と返済が賄えるかを試算する。社会保険と税金の変化も確認する |
特に、転職や独立を考えている場合は、融資の審査で給与収入の安定性が見られるため、タイミングが重要です。物件を買い増す予定があるなら、勤務状況が変わる前に、金融機関に相談しておくほうが選択肢が広がります。個別の判断は、金融機関や税理士に確認してください。
本業が忙しい時期への備え
- 連絡窓口を管理会社に一本化し、本業の時間帯でも、緊急時に連絡が取れる手段を決めておく
- 修繕の判断基準(金額の上限など)を、あらかじめ管理会社と取り決めておく
- 家賃の入金確認や支払いは、口座を物件専用にして、確認の手間を減らす
- 年間のスケジュール(固定資産税の納期、確定申告、更新時期)を、カレンダーに入れておく
会社員が始める手順
- 就業規則を確認する:副業、不動産賃貸、届出の要否を確認する。公務員の場合は、所属先に承認の要否を確認する
- 基礎知識を学ぶ:融資、税金、利回り、空室などのリスクを、書籍や公的機関の資料で学ぶ
- 自己資金と家計を整理する:生活防衛資金を除いた、使える資金を把握する。予備資金も含めて計画を立てる
- 融資の事前相談をする:自分の属性(勤務先、年収、勤続年数、他の借入)で、どの程度の借入が可能かを金融機関に聞く
- 物件を探して、収支を試算する:悪いシナリオ(空室、金利上昇、修繕)でも成り立つかを確認する
- 管理の体制を決める:管理会社の候補を比べ、委託する範囲を決める
- 購入後に、帳簿をつけ、申告の準備をする:領収書を保管し、確定申告や住民税の申告に備える
融資は、会社員の場合、勤務先の安定性や勤続年数、年収、他の借入の状況などが見られると一般にいわれます。審査の内容は金融機関ごとに異なるため、個別の条件は金融機関に確認してください。転職直後は、勤続年数の面で不利になる場合もあります。
融資の事前相談で聞いておくこと
- 自分の属性(勤務先、年収、勤続年数)で、借入の目安がどのくらいか
- 物件の評価で、どのような点(築年数、立地、収益性)が重視されるか
- 金利の種類(変動、固定)と、返済期間の考え方
- 自己資金は、物件価格のどのくらいを求められるか
- 他の借入(住宅ローン、自動車ローンなど)が、審査にどう影響するか
- 繰上返済の手数料や、条件変更の可否
事前相談は、物件を決める前に行うのが基本です。相談の内容や金融機関の回答は、書面やメモに残し、複数の金融機関で比べると、自分の条件で進められる範囲が見えてきます。
よくある失敗と、その防ぎ方
- 就業規則を確認せずに始めてしまう:購入後に問題になると、取り返しがつかない。購入前に確認する
- 確定申告を忘れる:20万円を超える所得があるのに申告せず、後から修正を求められる。帳簿を毎月つける
- 住民税の申告を忘れる:所得税の申告が不要でも、住民税の申告が必要な場合がある。市区町村に確認する
- 本業の収入を前提に借りすぎる:給与が減ったときに返済が苦しくなる。収入が減った場合を試算しておく
- 管理を委託せずに自分で抱え込む:本業が忙しい時期に対応できなくなる。委託の範囲を購入前に決める
- 予備資金を使い切る:空室や修繕に備える資金がなくなる。購入後の手元資金を確認する
よくある質問
Q. 副業禁止の会社でも、不動産投資はできますか。
A. 会社の規程によります。不動産賃貸が副業にあたるか、届出や許可が必要か、規模による扱いの違いがあるかは、会社ごとに異なります。就業規則を確認し、不明な点は人事・総務部門に確認してください。
Q. 本業が忙しくても続けられますか。
A. 管理会社に委託すれば、日常の管理にかける時間は抑えられます。ただし、委託費用が収益を圧迫しないか、金融機関との手続きや大きな修繕の判断は自分で行う必要があることを前提に、計画を立ててください。
Q. 家賃収入が少なければ、確定申告は不要ですか。
A. 給与が1か所で、全額が源泉徴収されている場合、不動産所得(収入から経費を引いた額)を含む給与以外の所得が20万円以下なら、所得税の確定申告は原則不要です。ただし、住民税の申告は必要な場合があり、赤字を損益通算して還付を受けるなら確定申告が必要です。
Q. 会社に知られずに不動産投資はできますか。
A. 就業規則で届出や許可が必要とされている場合は、その手続きに従う必要があります。住民税の徴収方法は選択できる場合がありますが、取扱いは市区町村で異なります。規程と手続きを守ることが前提です。
Q. 確定申告は、自分で行えますか。
A. 会計ソフトやe-Taxを使って、自分で申告する人もいます。青色申告の特別控除を受けるには、帳簿のつけ方などの要件があります。収支が複雑な場合や、初めての申告で不安がある場合は、税理士に相談してください。
Q. いつから個人事業税がかかりますか。
A. 不動産貸付業の基準(たとえば、住宅用の一戸建て10棟以上、アパート10室以上など)を満たす場合に、課税対象になることがあります。基準は都道府県で異なるため、物件の所在地の都道府県税事務所に確認してください。
まとめ
会社員は、安定した給与があるため、融資や運営の面で有利な点があります。そのうえで、次の順で確認すると、安心して進められます。
- 最初に就業規則を確認する。国のガイドラインは副業・兼業を認める方向だが、届出や許可の手続きは会社の規程に従う
- 給与以外の所得(収入から経費を引いた額)が20万円を超えると、所得税の確定申告が必要。住民税の申告は別に必要な場合がある
- 住民税の徴収方法は選択できる場合がある。取扱いは市区町村に確認する
- 5棟10室などの基準を超えると、青色申告特別控除の拡大や個人事業税の対象など、扱いが変わる
- 管理会社に委託する範囲を購入前に決め、費用を収支に入れる
- 融資は、属性や他の借入によって条件が変わる。事前に金融機関に相談する
この記事の数字は、説明のための仮の例です。実際の判断では、勤務先の規程を確認し、税理士や金融機関などの専門家に相談してください。税制は改正されることがあります。
※本記事は一般的な情報の提供を目的としたものであり、特定の投資・融資・税務上の判断を勧めるものではありません。制度や数値は記事作成時点の一般的な内容です。個別の判断は、金融機関・税理士などの専門家にご確認ください。
最終更新:2026年10月
関連記事
