収益物件の売買契約を結んだあとに、金融機関の本審査で融資が承認されなかった場合、どうなるのでしょうか。買主が手付金を放棄して契約を解除することになるのか、それとも手付金が戻るのかは、契約書の「ローン特約(融資特約)」の内容で変わります。この記事では、ローン特約の仕組み、期限の考え方、契約から本審査・決済までの流れ、特約を確認するときの注意点を、法令や国土交通省の資料を確認できた範囲で整理します。
目次
ローン特約とは
ローン特約(融資特約、融資利用の特約とも呼ばれます)は、買主が金融機関から融資を受けて物件を購入する場合に、売買契約に付ける特約です。一般的には、「買主が一定の期限までに、一定の条件で融資の承認を受けられなかったときは、買主が売買契約を解除でき、売主は受け取った手付金などを返還する」といった内容を定めます。
不動産投資では、購入価格が大きく、融資が前提となる取引がほとんどです。融資を受けられなかったときに、買主が手付金を失って契約を解除せざるを得なくなる事態を避けるために、この特約が使われます。
名称や内容は、契約書の書式や、売主・買主・仲介会社の合意によって異なります。主な論点は次のとおりです。
- 解除できる条件(融資の承認が得られなかったとき、融資額が足りなかったときなど)
- 解除できる期限
- 解除したときの手付金などの扱い
- 融資を申し込む金融機関、申込みの条件の指定
標準的な形が決まっていても、事業用や投資用の物件では、個別に調整される場合が多いため、契約書の文言を一つずつ確認する必要があります。
宅建業法と国土交通省の考え方
宅地建物取引業者が売買の媒介などを行う場合、買主に対して、契約前に重要事項を説明する義務があります。その中には、「代金又は交換差金に関する金銭の貸借のあつせんの内容及び当該あつせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置」が含まれています(宅地建物取引業法第35条第1項第12号)。
また、契約が成立したときに交付する書面(37条書面)の記載事項にも、あっせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置が挙げられています(同法第37条第1項第9号)。
国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(令和8年4月1日施行版)では、この点について、次のような趣旨が示されています(2026年10月に原文を確認しました)。
- 金融機関との保証委託契約が成立しないとき、または金融機関の融資が認められないときは、売主または買主は売買契約を解除できる旨を説明する
- 解除権の行使が認められる期限を設定する場合は、その旨を説明する
- 売買契約を解除したときは、売主は手付または代金の一部として受領した金銭を無利息で買主に返還する
つまり、仲介会社などが融資のあっせんに関する定めを置く場合には、融資が成立しなかったときの措置を、契約書面に明確にする必要があるという枠組みです。買主としては、重要事項説明書や契約書に書かれた「ローン不成立のときの措置」の内容を、よく読んで確認します。
融資が成立しなかったときの扱い
ローン特約に基づいて契約を解除すると、一般に、売主は受け取った手付金などを買主に返還します。国土交通省の考え方でも、無利息で返還するとされています。
ここで重要なのが、手付金の性質です。民法第557条では、買主が売主に手付を交付したときは、相手方が契約の履行に着手するまでは、買主は手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約を解除できると定められています。手付による解除では、損害賠償の請求は行わないとされます。
つまり、ローン特約の期限を過ぎてしまうと、「融資が通らなかった」という理由での解除はできなくなり、手付を放棄して解除するか、契約を履行するか、という選択になる可能性があります。この違いは、金額で見ると大きくなります。
手付金の扱いの例(仮の例)
売買価格5,000万円、手付金を価格の5%(250万円)とする仮の例で考えます。
| 状況 | 結果の例 |
|---|---|
| ローン特約の期限内に、融資の承認が得られず、特約に基づき解除する | 売主は手付金250万円を、無利息で返還する |
| 期限を過ぎて、融資が得られなかったと判明した | ローン特約による解除はできない。手付を放棄して解除する場合、250万円を失う |
| 期限を過ぎ、売主が契約の履行に着手した後に解除を希望する | 手付による解除ができない場合があり、契約違反として違約金を求められるおそれがある |
違約金の額は、契約で定めます。売主が宅地建物取引業者の場合、損害賠償額の予定と違約金の合計は、代金の2割を超えて定めることができず、超える部分は無効です(宅建業法第38条)。5,000万円なら、上限は1,000万円です。売主が業者の場合の手付は、代金の2割を超えて受領できません(同法第39条第1項)。これらの規定は売主が宅建業者の場合の制限であり、売主が個人や一般の法人の場合は、契約の定めによります。
融資額が足りないときの選択肢
承認された融資額が希望より少なかったときは、解除のほかにも選択肢があります。
- 自己資金を追加して、購入を続ける(ただし、手元資金の余裕が小さくなる)
- 別の金融機関に、改めて相談する(期限内に回答が得られるか確認する)
- 売主に価格の交渉を申し出る(売主の同意が必要)
- 特約に基づいて契約を解除し、手付金の返還を受ける
どの選択肢を取るかは、購入後の収支と手元資金の余裕から判断します。手元資金が薄くなると、空室や修繕が重なったときに返済が苦しくなるおそれがあるため、追加の自己資金を入れるときは、収支計画を作り直してから決めてください。期限の直前に判断を迫られないよう、承認の回答が出た時点で速やかに検討を始めることをおすすめします。
契約から決済までの流れ
売買契約から決済までの流れと、ローン特約の期限の位置づけを整理します。
- 購入の申込み(買付証明書)を出す
- 金融機関に事前審査を申し込む(契約前に済ませるのが望ましい)
- 売買契約を締結する(手付金を支払う。ローン特約を付ける)
- 金融機関に本審査を申し込む
- 本審査の結果が出る(融資の承認)
- ローン特約の期限(この日までに承認が得られなければ解除できる)
- 金銭消費貸借契約(融資契約)を結ぶ
- 決済日に、融資が実行され、売買代金を支払い、所有権移転と抵当権設定の登記を行う
ローン特約の期限は、通常、本審査の結果が出る時期を考慮して、決済日より前に設定されます。期限が短いと、審査が間に合わず、期限の延長を交渉する必要が生じます。逆に、期限を長く取りすぎると、売主にとっては契約が不安定な期間が長くなるため、合意が難しくなる場合があります。
時間の目安の考え方
審査にかかる期間は、金融機関や案件によって異なります。一般には、次のような要素で変わります。
- 提出書類の準備の速さ(確定申告書、決算書、レントロールなど)
- 物件の評価に必要な調査(現地確認、担保評価)
- 金融機関内部の決裁(支店決裁か、本部決裁か)
- 他の取引で金融機関が忙しい時期(決算期、年度末など)
あらかじめ、金融機関の担当者に、事前審査から本審査までのおおよその期間を確認し、売買契約の期限や決済日の設定に反映させるのが基本です。提出書類の準備の順番は、別の記事で整理する予定です。
日程の組み立て方の例(仮の例)
次の表は、仕組みを理解するための仮の日程です。実際の期間は、金融機関や案件によって大きく異なります。
| 時期(契約日からの目安) | 内容 | 確認すること |
|---|---|---|
| 契約日 | 売買契約の締結、手付金の支払い | ローン特約の期限・条件が契約書に書かれているか |
| 契約日の翌営業日〜数日以内 | 本審査の申込み | 必要書類が事前審査の時点で準備できているか |
| 1〜2週間後 | 金融機関から追加資料の依頼 | 依頼への回答が速やかにできる体制か |
| 3〜4週間後 | 本審査の回答 | 承認の内容(融資額、期間、金利、担保・保証)が希望と合っているか |
| ローン特約の期限 | 融資承認が得られなかった場合の解除期限 | 解除する場合は、書面で通知する |
| 決済日の1〜2週間前 | 金銭消費貸借契約の締結 | 手数料、印紙税、抵当権設定の費用の準備 |
| 決済日 | 融資の実行、売買代金の支払い、登記 | 火災保険の加入、司法書士との段取り |
この日程で、特約の期限が、本審査の回答の見込みよりも十分に後に置かれているかを見ます。期限と回答の見込みが近い場合は、余裕を持たせるために、期限を後ろに設定するか、延長の条件を契約書に入れる方法を、売主と相談します。
「承認」と「実行」は別のもの
融資の手続きでは、事前審査の通過、本審査の承認、融資の実行は、それぞれ別の段階です。
| 段階 | 内容 | ローン特約との関係 |
|---|---|---|
| 事前審査 | 簡易な資料で融資の見込みを確認する | 特約の期限に含めないことが多い |
| 本審査(融資承認) | 物件の評価や詳細な資料を踏まえて、融資の可否と条件を決める | 特約の期限は、通常この回答が得られる時期を基準にする |
| 金銭消費貸借契約 | 融資の条件を契約書にして締結する | 承認後の手続き |
| 融資の実行 | 決済日に、融資金が支払われる | 実行されなかった場合の扱いを、特約でどう定めるか確認する |
特約が「融資の承認が得られなかったとき」を条件としているのか、「融資が実行されなかったとき」まで含むのかで、買主の保護の範囲が変わります。承認後に、金融機関の事情や、買主の状況の変化(たとえば、勤務先の変更や、新たな借入れ)で実行されなくなる可能性もゼロではないため、文言をよく確認してください。
特約に確認しておきたい内容
ローン特約の文言には、細かい違いが多くあります。契約の前に、次の点を確認します。
| 確認項目 | 確認するポイント |
|---|---|
| 期限 | 何月何日までか。金融機関の回答日か、買主が売主に通知する日か |
| 解除の条件 | 「融資の承認が得られなかったとき」か、「融資が実行されなかったとき」か |
| 融資の条件 | 融資額、金利、期間、返済方式などの希望条件が具体的に書かれているか |
| 対象の金融機関 | 指定の金融機関に限られるか、複数申し込んでもよいか |
| 解除の方法 | 書面での通知が必要か。通知の期限と宛先 |
| 返還金 | 手付金のほか、支払済みの金額が全額返還されるか。返還時期 |
| 一部承認の扱い | 希望額より少ない額で承認された場合、解除できるか |
| 融資の変更 | 金融機関を変更したい場合の扱い |
特に、「融資の条件」がはっきり書かれていないと、融資の承認は得られたが、希望した金額や期間とは違う条件だった場合に、特約による解除ができるかどうかで、争いになるおそれがあります。たとえば、4,000万円の融資を希望していたのに、金融機関の承認が3,000万円だった場合、自己資金で1,000万円を追加できなければ、購入を続けられません。こうした状況でも解除できるよう、「融資額が〇〇万円以上で承認されなかった場合」といった形で具体的に定めておくことが大切です。
期限の考え方
ローン特約の期限は、次の3点を踏まえて考えます。
- 金融機関の審査期間: 事前審査から本審査の回答まで、どのくらいかかるか
- 買主側の書類準備の期間: 追加書類の提出を求められたときに対応できるか
- 決済日までの余裕: 融資が承認されても、金銭消費貸借契約や抵当権設定の準備に時間が必要
期限が決済日の直前になっていると、融資が承認されない場合に、代替策を検討する時間がありません。反対に、期限が早すぎると、本審査の回答が間に合いません。期限を設定するときは、金融機関に、審査の見込み時期を確認し、余裕を持った日程にすることが大切です。
また、期限内に結果が出ない可能性がある場合は、売主と相談して、期限の延長について合意しておくことも考えられます。その場合は、書面で合意内容を残します。口頭の約束だけでは、あとで食い違いが生じるおそれがあります。
注意したい点
ローン特約を使うときに、買主が注意したい点を挙げます。
事前審査を済ませておく
売買契約を結んだあとに、融資が通らなかったことが分かるのは、手付金を支払った後の話になります。事前審査を契約前に済ませ、融資の見通しを確認しておくことで、特約を使うリスクを小さくできます。ただし、事前審査の結果は、本審査の承認を保証するものではありません。
融資を受けるための手続きを誠実に進める
民法では、条件の成就によって不利益を受ける当事者が、故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができるとされています(第130条第1項)。たとえば、買主が融資の申込みを怠ったり、必要な書類を提出しなかったり、事実と異なる内容で申し込んだりして、融資が通らなかった場合には、ローン特約による解除が認められない可能性があります。
特約を使うときは、金融機関への申込みを速やかに行い、書類の提出や、問い合わせへの回答を、誠実に行うことが前提です。
融資の条件を変えたいとき
融資が承認されても、金利や期間が希望と異なる場合があります。その場合に、特約で解除できるのかは、契約書の文言次第です。条件の変更を金融機関に交渉するなら、期限内に行う必要があります。条件交渉の考え方は、別の記事で整理した融資条件の確認項目が参考になります。
売主・仲介会社とのコミュニケーション
本審査の進み具合、追加書類の依頼、期限の見込みなどは、売主や仲介会社にも、適時に共有しておくと、期限の延長が必要になったときに、話がしやすくなります。
法人名義・事業用の取引での注意
法人名義で購入する場合や、事業用の物件を購入する場合には、個人が住宅を購入するときとは異なる点があります。
- 法人の決算書や、役員の資産・負債の資料が必要になり、審査に時間がかかることがある
- 代表者の保証など、追加の条件が提示される場合がある
- 契約書の書式が個別に作られ、ローン特約の文言が標準的な書式と異なる場合がある
- 売主が宅建業者でない場合、宅建業法の制限が直接適用されない
こうした取引では、契約書の内容を、売主・仲介会社に任せきりにせず、買主自身が理解して確認することが重要です。必要に応じて、弁護士など専門家の確認を受けてください。
よくある失敗
ローン特約で起こりやすい失敗を挙げます。
- 期限を確認していない: 審査が長引き、期限を過ぎて、特約による解除ができなくなる。
- 期限が決済日の直前: 融資が承認されない場合に、対応する時間がない。
- 特約の文言が曖昧: 融資額や条件の定めがなく、承認額が不足した場合に解除できるか争いになる。
- 事前審査を済ませていない: 契約後に、融資が受けられないことが判明する。
- 審査の連絡を怠る: 書類提出が遅れて、期限に間に合わなくなる。
- 複数の金融機関に申し込む場合の指定を確認していない: 特約が、指定の金融機関に限られていて、別の金融機関で承認を得ても解除できないことがある。
契約前のチェックリスト
- ローン特約の期限を確認し、金融機関の審査期間と照らして余裕があるか
- 解除の条件(融資額、承認か実行か)が具体的に書かれているか
- 手付金の返還について、返還の範囲と時期が書かれているか
- 解除の通知の方法と期限が分かるか
- 事前審査は済んでおり、本審査の必要書類は準備できているか
- 期限の延長が必要になった場合の連絡方法と合意の方法を確認したか
よくある質問
Q. ローン特約があれば、必ず手付金は戻りますか。
A. 特約の条件に当てはまる場合に限ります。期限内に、特約で定めた条件(融資の承認が得られなかったなど)に該当し、定められた方法で解除したときに、返還されるのが基本です。期限を過ぎたり、買主の事情で融資が通らなかったりした場合は、返還されないことがあります。
Q. 事前審査が通っていれば、ローン特約は不要ですか。
A. 事前審査は、本審査の承認を保証するものではありません。本審査で、物件の評価や追加資料の内容によって、結果が変わる可能性があります。融資を前提に購入する場合は、ローン特約を付けるのが一般的です。
Q. 融資額が希望より少なかった場合も、解除できますか。
A. 契約書の文言によります。「融資額が〇〇万円以上で承認されなかった場合」のように具体的に定めてあれば、解除の根拠になります。曖昧な場合は、争いになるおそれがあるため、契約前に明確にしておくことが大切です。
Q. 期限内に審査が終わらない場合は、どうすればよいですか。
A. 売主・仲介会社に早めに連絡し、期限の延長を相談します。延長に合意できた場合は、書面で内容を残します。合意できないときは、期限を過ぎる前に、解除するか、契約を履行するかの判断が必要になります。専門家への相談もご検討ください。
Q. 売主が個人の場合も、国土交通省の考え方が当てはまりますか。
A. 国土交通省の考え方は、宅地建物取引業者が関与し、金銭の貸借のあっせんに関する定めがある場合の取扱いです。売主が個人でも、仲介会社が関与する取引であれば、重要事項説明などで同様の整理が行われることが一般的ですが、特約の内容は、契約の定めによります。個別の取引については、専門家に確認してください。
まとめ
ローン特約は、融資を前提とする購入で、融資が受けられなかったときに、買主が手付金を失わずに契約を解除できるようにするための特約です。宅建業法では、あっせんした金銭の貸借が成立しないときの措置を、重要事項説明や契約書面に示す枠組みがあり、国土交通省の考え方では、解除できる旨と期限を説明し、解除時には受け取った金銭を無利息で返還するとされています。
実際には、期限、解除の条件、融資の条件、返還の範囲が、契約書ごとに異なります。契約前に事前審査を済ませ、金融機関の審査期間を確認し、特約の文言を具体的にしておくことが大切です。
法令や制度は改正されることがあります。実際の契約にあたっては、仲介会社の説明に加え、金融機関や弁護士などの専門家にも確認してください。
※本記事は一般的な情報の提供を目的としたものであり、特定の投資・融資・税務上の判断を勧めるものではありません。制度や数値は記事作成時点の一般的な内容です。個別の判断は、金融機関・税理士などの専門家にご確認ください。
最終更新:2026年10月
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