融資の相談を進めていると、金融機関の担当者から「稟議にかけます」「本部の承認が必要です」と言われることがあります。借りる側からは見えない社内の手続きなので、何を見られているのか分からず、不安になる方も多いはずです。この記事では、金融庁の公表資料をもとに、不動産投資の融資で金融機関が重視している5つのポイントと、担当者が稟議を書きやすくするための資料の整え方を整理します。
稟議とは何か
稟議(りんぎ)は、一般に、担当者が起案した融資案件について、上司・支店長・本部などの決裁権限者が順に確認し、承認を得る社内手続きを指します。金融機関ごとに権限や手順は異なり、融資額や条件によって、支店長の決裁で足りる案件と、本部の審査部門まで上がる案件に分かれるのが一般的です。
借りる側が稟議書そのものを見ることはできません。そのため、融資の申込者がすることは、担当者が稟議書に書きたい内容を、資料と説明でそろえることになります。
担当者の視点に立つと、稟議書には次のような内容を書く必要があります。
- 誰に、いくら、何のために、どの期間で貸すのか
- 返済の原資は何で、その見込みは妥当か
- 担保は何で、評価額はいくらか
- 懸念点は何で、それをどう整理したか
つまり、担当者が上司や審査部門に説明しやすい資料ほど、案件が前に進みやすくなります。逆に、数字が食い違っていたり、説明の根拠が見つからなかったりすると、担当者が確認に時間を取られ、結論が出るのが遅れることもあります。
金融庁の公表資料から読み取れる前提
金融庁は、2019年3月に「投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果」(金融庁)を公表しています。銀行・信用金庫・信用組合に対し、一棟建(土地・建物)向けの融資の管理態勢を調査したものです。この資料には、金融機関に求められる対応が整理されています(2026年10月に原文を確認しました)。
その中で、融資審査に関わる主な点は次のとおりです。
- 一棟建向けの融資は、賃貸事業が長期的に生み出すキャッシュ・フローの水準が返済を大きく左右する、事業性融資の性格が強い
- 融資の主な返済原資は物件が生み出すキャッシュ・フローとして、物件が収益を生む期間(耐用年数)を客観的に検証し、融資期間を整合させることが重要
- ストレスも勘案した、完済までの収支シミュレーションに基づいて返済可能性を見極める
- 物件の売買価格や賃料水準の妥当性を、紹介業者に任せきりにせず、自ら検証する
- 顧客の財産・収入を示す資料が偽装されないよう、エビデンスの原本確認や、職業・年齢・家族構成に照らした妥当性の検証を行う
- 顧客が事業・収支の見込みやリスクを理解しているかを確認する
金融機関側の対応事例として、融資期間が法定耐用年数を超える場合に融資の稟議を本部決裁とした事例、全融資期間のシミュレーションを行い大規模修繕も返済計画に織り込むこととした事例、顧客から直接エビデンスを受け取る事例なども紹介されています。
この資料は金融機関向けの考え方を示したものですが、借りる側から見れば、「融資の審査では何が確認されるか」を知る手がかりになります。以下の5つのポイントは、この資料の内容と、融資実務の一般的な流れを踏まえて整理したものです。個別の金融機関の審査基準を示すものではありません。
ポイント1: 物件の収益力と収支シミュレーション
1つ目は、物件そのものが生み出す収益で返済できるかどうかです。
金融機関は、レントロール(賃貸借条件一覧表)や賃貸借契約書から、現在の賃料収入を確認します。そこから運営費(管理費、修繕費、固定資産税、保険料など)を引き、返済額と比べて、返済に余裕があるかを見ます。
収支の見方の例(仮の例)
次の仮の例で考えます。
- 年間の想定賃料収入: 600万円
- 空室や滞納を見込んで、実効収入を90%とする: 540万円
- 運営費を実効収入の25%とする: 135万円
- 運営費を引いた収益: 405万円
- 借入: 5,000万円、25年、元利均等返済、金利2.0%と仮定すると、年間の返済額は約254万円
この場合、収益405万円に対して返済は約254万円で、返済額に対する収益の倍率は約1.6倍です。金利が上がったり、空室が増えたりすると、この余裕が小さくなります。金融機関は、こうした変動を織り込んだ見通しを見ているため、借りる側も、あらかじめ数字を変えて試算しておくと、質問に答えやすくなります。
同じ条件(借入5,000万円、25年、元利均等)で、金利だけを変えて試算すると、次のようになります(仮の例。収益は405万円で固定)。
| 金利 | 月額返済(概算) | 年間返済(概算) | 返済額に対する収益の倍率 |
|---|---|---|---|
| 2.0% | 約21.2万円 | 約254万円 | 約1.6倍 |
| 3.0% | 約23.7万円 | 約285万円 | 約1.4倍 |
| 4.0% | 約26.4万円 | 約317万円 | 約1.3倍 |
| 5.0% | 約29.2万円 | 約351万円 | 約1.15倍 |
金利が2.0%から4.0%に上がると、年間の返済額は約63万円増え、倍率は1.6倍から1.3倍に下がります。このように、金利が上がったときに、どこまで耐えられるかを自分で把握しておくことが大切です。なお、この表は金利だけを動かしたもので、空室や修繕費が同時に増えるケースは含んでいません。
金利上昇への備えは、別の記事で整理した金利上昇のストレステストの考え方がそのまま使えます。
融資期間の見方
金融庁の資料では、中古物件の融資期間が、築年数を控除した法定耐用年数を大きく超えるケースがあることに触れ、耐用年数が客観的に評価されているかに留意する必要があるとされています。融資期間と建物の寿命の関係は、金融機関が気にする点のひとつです。
借りる側は、希望する融資期間の根拠を、建物の構造や築年数、修繕の状況から説明できるようにしておくと、話が進みやすくなります。
ポイント2: 物件の価格と賃料の妥当性
2つ目は、購入価格と賃料が、周辺の実態に照らして妥当かどうかです。
金融庁の資料では、金融機関が売買価格の妥当性や現地の確認、近隣の状況の確認を行うことが多いとされています。一方で、紹介業者による売買価格の吊り上げの例もあったと記されており、金融機関が物件の価格や賃料を、自ら確認する重要性が示されています。
金融機関が参考にする材料として、一般に次のようなものが考えられます。
- 近隣の取引事例や、周辺の家賃相場
- 周辺の入居率
- 土地の評価(路線価など)や、建物の評価
- 現地の状況(周辺環境、建物の状態)
借りる側が資料を出す場合は、購入価格が周辺の類似物件と比べて高すぎないか、賃料が相場から離れていないかを、自分でも確認しておくことが大切です。たとえば、周辺の同じ広さの部屋が月6万円程度で募集されているのに、レントロールでは月8万円となっていれば、再募集時に下がる可能性を指摘されることがあります。その場合は、賃料の根拠(設備、立地、募集実績など)を説明できるようにしておきます。
ポイント3: 借り手の収入と資産の裏付け
3つ目は、借りる人の返済能力です。給与所得者であれば、勤務先や年収、勤続年数、既存の借入などが見られます。法人で借りる場合は、決算書や代表者の資産・負債の状況が見られます。
金融庁の資料には、顧客の財産・収入を示す資料が偽装されるという問題を防ぐため、金融機関が提出されたエビデンスの内容を、形式的ではなく実質的に確認する必要があるとされています。具体的には、原本の確認に加えて、職業・年齢・家族構成に照らして、財産や収入の水準が妥当かを検証することが重要と示されています。
借りる側として、次のような準備が役立ちます。
- 源泉徴収票、確定申告書、決算書など、数字の根拠となる書類を最新のものにそろえる
- 預金通帳は、出入金の履歴を含めて用意し、資金の出どころを説明できるようにする
- 既存の借入は、残高、金利、返済額、返済期間を一覧にしておく
- 書類は、本人が直接金融機関へ提出する形が望ましい
資金の出どころの示し方は、別の記事で自己資金の証明として整理する予定です。
ポイント4: 自己資金と購入後の余力
4つ目は、頭金や諸費用をどの程度自己資金で出せるか、購入後に手元の資金にどれだけ余裕があるかです。
融資を受けて物件を取得する投資は、金利の上昇や空室などの変化が起きたときに、手元の資金で支えられるかが重要です。金融機関は、自己資金の水準だけでなく、購入後に手元に残る流動資産の額や、他の資産の状況も見ます。
たとえば、次の2つのケースを比べると、考え方が分かります(仮の例)。
| 項目 | ケースA | ケースB |
|---|---|---|
| 購入価格 | 5,000万円 | 5,000万円 |
| 自己資金(頭金+諸費用) | 800万円 | 800万円 |
| 購入後に残る現預金 | 50万円 | 400万円 |
| 年間の返済額(借入4,200万円、25年、金利2.0%と仮定) | 約213万円 | 約213万円 |
| 手元資金で返済を支えられる月数の目安(月額返済を約17.8万円として) | 約3か月 | 約22か月 |
どちらも自己資金は同じですが、購入後に残る現預金が違います。手元資金が薄いと、空室や修繕が重なったときに、返済が苦しくなるおそれがあります。この月数の計算は、手元資金÷月額返済額という単純なもので、実際には運営費なども考える必要がありますが、余力を考える目安にはなります。
ポイント5: 取引の全体像とリスクの理解
5つ目は、取引の全体像が整理されており、借りる側がリスクを理解しているかです。
金融庁の資料には、金融機関が、紹介業者やサブリース業者の業務の適切性を検証すること、顧客に対して、事業・収支の見込みやサブリース契約の条件などの重要な点の理解度を確認することが求められる旨が記されています。また、主要なリスクとして、空室率の上昇、大規模修繕、サブリースなどが例示されています。
そのため、融資の面談では、次のような質問を受けることがあります。
- なぜこの物件を選んだのか
- 空室が増えたとき、どう対応するのか
- 大規模修繕の費用は、どのように準備するのか
- 管理会社やサブリース会社は、どこで、どのような契約か
- 金利が上がったとき、返済は続けられるか
これらに、自分の言葉で答えられることが重要です。「業者に任せている」という説明だけでは、リスクを理解しているとは受け取られにくくなります。サブリースの家賃保証については、別の記事で整理した家賃保証と融資の関係が参考になります。
稟議に通りやすい資料の整え方
5つのポイントを踏まえて、資料づくりの順番を整理します。
- 事業の概要を1枚にまとめる(物件の概要、購入価格、融資希望額・期間、返済原資)
- レントロールを最新の状態に更新する
- 収支計画を作る(現況ベースと、空室・金利上昇を織り込んだ試算の両方)
- 自分の収入・資産・負債の一覧を作り、根拠書類をそろえる
- 物件の価格と賃料の根拠(周辺の事例など)を添える
- 想定されるリスクと、その対応を文章で示す
5つのポイントと、それぞれに対応する資料の例を、表にまとめます。
| ポイント | 金融機関が確認したいこと | 用意する資料の例 |
|---|---|---|
| 1. 収益力 | 物件の収益で返済できるか | レントロール、賃貸借契約書、収支計画、修繕の履歴 |
| 2. 価格と賃料 | 購入価格・賃料が相場と合うか | 売買契約書案、周辺の募集事例、物件資料 |
| 3. 収入と資産 | 返済能力と資料の真正性 | 源泉徴収票、確定申告書、決算書、通帳、借入一覧 |
| 4. 自己資金と余力 | 購入後も手元資金に余裕があるか | 資金計画表、預貯金・有価証券の残高 |
| 5. 取引の全体像 | リスクを理解し、管理体制があるか | 管理委託契約書、サブリース契約書、事業計画書 |
この順番で作ると、担当者が稟議書に転記しやすく、質問への答えも整理されます。提出書類の具体的な準備の順序は、別の記事で扱う予定のため、ここでは考え方のみ示します。
事業計画書(1枚)の構成例
資料の最初に置く1枚の計画書は、次の順番で書くと読みやすくなります。
- 目的: なぜこの物件を取得するのか(長期保有か、将来の売却を含めるか)
- 物件の概要: 所在地、構造、築年数、面積、戸数、購入価格
- 資金計画: 融資希望額、期間、自己資金、諸費用の内訳
- 収支計画: 現況の賃料収入、運営費、返済額、収益
- リスクと対応: 空室、金利上昇、修繕、出口(売却)の考え方
- 運営体制: 管理会社、修繕の相談先、税理士などの専門家
目的が明確で、数字とリスクの説明が一貫していると、担当者は稟議書に書く内容を組み立てやすくなります。逆に、目的が「節税」だけのように見える書き方は、事業としての採算を重視する金融機関には伝わりにくいため、避けたほうが無難です。
面談での受け答えの準備
面談では、資料に書いてあることを、口頭で説明する場面があります。次のような質問に備えて、簡単なメモを作っておきます。
| 想定される質問 | 準備しておく内容 |
|---|---|
| この物件を選んだ理由は | 立地の需要、価格の根拠、収支の見通し |
| 空室が出たときの対応は | 想定する空室期間、募集の方法、手元資金の額 |
| 金利が上がったらどうするか | 試算した金利の水準、繰上返済や借り換えの考え方 |
| 大規模修繕の資金は | 修繕の時期の見込み、積み立ての計画 |
| 将来、売却するつもりはあるか | 出口の時期と、売却価格の想定の考え方 |
答えを暗記する必要はありません。資料の数字と、自分の考えがつながっていることが伝われば十分です。分からないことは、無理に答えず、「確認して後日回答します」と伝えるほうが、誠実な印象になります。
資料づくりのチェックリスト
- 数字が、資料間で食い違っていないか(賃料、面積、返済額、日付)
- 作成日・基準日が明記されているか
- 前提(空室率、運営費の割合、金利)が書かれているか
- 売りたい側(売主・仲介)の資料と、自分で確認した資料が区別されているか
- 不利な情報(空室、修繕の予定、築年数)も隠さず書いているか
融資の実行後に求められることもある
稟議は融資を実行する前の手続きですが、金融庁の資料では、実行後の管理(期中管理)にも触れられています。アンケートでは、実行後に賃料や空室率の実績を確認している金融機関がある一方、実績を踏まえた収支見込みの更新を「一切行っていない」とする金融機関が約半数あったとされています。また、改善事例として、賃料や修繕費の実績報告を求めたり、取得時の賃料収入の予想と実績のずれを確認したりする例が紹介されています。
借りる側にとっては、融資後も、賃料収入や修繕費の実績を整理しておくことが、次の相談の下地になります。たとえば、借り換えや追加の融資を相談するとき、過去の稼働率や修繕の実績が整理されていれば、担当者は新しい稟議を書きやすくなります。
- 毎月の賃料入金と空室の状況を記録する
- 修繕・設備交換の費用と時期を台帳にまとめる
- 年に1回、収支の実績と当初計画の差を確認する
- 返済に不安が出る前に、金融機関へ早めに相談する
当初の計画と実績のずれを自分で把握し、説明できる状態にしておくことは、金融機関との信頼関係にもつながります。
よくある失敗
稟議の段階で、案件が止まりやすい例を挙げます。
- 数字の食い違い: 資料ごとに賃料や経費の数字が違うと、確認に時間がかかり、信頼も下がります。
- 楽観的な収支だけを示す: 満室・低金利を前提にした計画だけでは、リスクの検討が不十分に見えます。
- 担当者への説明が毎回違う: 面談ごとに目的や計画の説明が変わると、一貫性を疑われます。
- 書類の提出が遅れる: 追加の資料依頼に時間がかかると、審査の手順が停滞します。
- 担当者の質問に業者任せで答える: 自分の言葉で説明できないと、理解度を疑問視されることがあります。
また、融資の可否や条件は、金融機関の方針、時期、他の案件の状況などによっても変わります。1つの金融機関で難しいと言われても、別の金融機関では違う判断になることがあります。使い分けの考え方は、別の記事で整理する予定です。
よくある質問
Q. 稟議の進み具合を担当者に聞いてもよいですか。
A. 構いません。ただし、審査の内容そのものは社内情報のため、詳しくは教えてもらえないことがあります。進行の目安(いつ頃に結果が分かるか、追加資料はあるか)を尋ねる形が現実的です。
Q. 稟議で否決された場合、理由は教えてもらえますか。
A. 金融機関によって対応は異なり、詳細な理由は開示されないことがあります。それでも、担当者との会話から、収益性、担保、属性などの方向性が分かる場合があります。その内容を踏まえて、条件や資料を見直すとよいでしょう。
Q. 収支計画は、どの程度細かく作ればよいですか。
A. 融資期間を通じた収支の見通しと、空室・金利上昇を織り込んだ試算があると、金融機関は検討しやすくなります。大規模修繕など、定期的に発生する費用も組み込むと、説得力が増します。
Q. 不動産会社が作った資料をそのまま出してもよいですか。
A. そのまま提出するのは避けたほうがよいでしょう。金融庁の資料でも、紹介業者に任せきりにせず、金融機関が自ら確認することが求められています。借りる側も、資料の数字を契約書や通帳などの根拠と照らして、自分で確認してから出してください。
Q. 本部決裁になると、通りにくくなりますか。
A. 一概には言えません。本部決裁となるかどうかは、融資額や条件などによって決まり、金融機関ごとに運用が異なります。本部決裁の場合は、社内の確認事項が増えるため、資料の整合性や説明の一貫性が一層大切になります。
まとめ
稟議は、金融機関内部で融資の可否を判断する手続きで、借りる側が見ることはできません。そのため、担当者が説明しやすい資料と、一貫した説明が重要になります。
金融庁の公表資料からは、融資審査で、物件のキャッシュ・フローによる返済可能性、価格・賃料の妥当性、借り手の財産・収入の裏付け、取引の全体像とリスクの理解が確認されることが読み取れます。これらを5つのポイントとして整理し、自分の資料で一つずつ答えられるようにしておくと、審査がスムーズに進みやすくなります。
融資の判断は金融機関ごとに異なり、制度や運用は変わることがあります。実際の申込みにあたっては、金融機関の担当者や、税理士などの専門家に確認してください。
※本記事は一般的な情報の提供を目的としたものであり、特定の投資・融資・税務上の判断を勧めるものではありません。制度や数値は記事作成時点の一般的な内容です。個別の判断は、金融機関・税理士などの専門家にご確認ください。
最終更新:2026年10月
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