不動産投資の融資では、「積算評価」という言葉がよく出てきます。物件の土地と建物を別々に評価して足し合わせた金額のことで、金融機関が担保としての価値を測るときの代表的な方法です。この記事では、積算評価の考え方と、土地・建物それぞれの計算の流れを、仮の数字を使って順番に確認します。あわせて、評価額から融資額の見通しを立てるときの注意点も整理します。
積算評価とは何か
積算評価とは、物件を「土地の価値」と「建物の価値」に分けて、それぞれの評価額を積み上げる方法で、原価法の考え方がもとになっています。国土交通省の不動産鑑定評価基準では、原価法は、価格時点での再調達原価(いま同じものを新しく調達するのにかかる費用)を求め、そこから減価修正(古くなった分の価値の減少)を行って価格を求める手法とされています。建物に当てはめると、「いま建て直したらいくらか」から「古くなった分」を引いた金額が、積算価格の考え方です。
金融機関は、この考え方を応用して、物件を担保にしたときの評価を出します。ただし、評価の方法、使う単価、掛け目(評価額のうち融資に使う割合)は金融機関ごとに異なり、公表されていないのが一般的です。この記事の計算例は、考え方を理解するための仮の例であり、特定の金融機関の評価と一致するものではありません。
なお、賃貸物件の価値を測る方法には、積算評価のほかに、家賃収入から逆算する収益還元の考え方もあります。収益還元は、利回りや出口のキャップレートの別の記事で整理したとおりです。融資の担保評価では、積算評価と収益の見通しの両方が、確認されます。
土地の評価に使う4つの価格
積算評価の土地部分では、どの価格を基準にするかで、金額が大きく変わります。代表的な公的な価格は、次の4つです。それぞれ目的が異なり、水準も違います。
| 価格 | 公表する機関 | おおよその水準・特徴 |
|---|---|---|
| 地価公示価格 | 国土交通省(土地鑑定委員会) | 毎年1月1日時点の標準地の正常な価格を、3月に公示。一般の土地取引の指標になる。 |
| 実勢価格(取引価格) | 市場(売買の実例) | 実際に売買される価格。物件ごとに異なり、公的な一覧はない。 |
| 相続税路線価 | 国税庁 | 毎年1月1日時点。地価公示価格等の水準の80%程度を目途に定められている。 |
| 固定資産税評価額 | 市町村(東京23区は東京都) | 地価公示価格等の7割を目途に評価される(総務省の通知による)。3年ごとの評価替え。 |
公示価格を100とすると、路線価は80程度、固定資産税評価額は70程度という関係です。したがって、路線価をそのまま使うと、実勢より低めの評価になります。金融機関によっては、路線価を0.8で割り戻して実勢に近づける、固定資産税評価額を0.7で割り戻す、公示価格や基準地価を使う、といった違いがあります。
路線価は、国税庁の路線価図で確認できます。路線価とは、路線(道路)に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額で、千円単位で表示されます。たとえば路線価図に「200D」とあれば、1平方メートル当たり20万円(Dは借地権割合を示す記号)という意味です。
土地の評価額の計算例
路線価方式での土地の評価額は、基本的に「路線価 × 地積(面積) × 補正率」で求めます。補正率は、土地の形や条件による価値の違いを調整するためのもので、国税庁の財産評価基本通達に定められています。代表的なものが、奥行価格補正率です。
奥行価格補正率とは
奥行が短すぎたり長すぎたりする土地は、使い勝手が下がるため、評価が減額されます。国税庁の奥行価格補正率表(普通住宅地区)では、奥行距離が4m未満で0.90、6m以上8m未満で0.95、8m以上10m未満で0.97、10m以上12m未満で1.00などと定められています(表は、地区区分ごとに異なり、さらに長い奥行についても数値があります)。
仮の例:土地3,300万円の場合
| 項目 | 仮の条件・計算 |
|---|---|
| 土地の面積(地積) | 165平方メートル(約50坪) |
| 路線価 | 1平方メートル当たり20万円(路線価図で「200」と表示される道路) |
| 地区区分・奥行 | 普通住宅地区、奥行11m(10m以上12m未満なので補正率1.00) |
| 計算 | 20万円 × 1.00 × 165平方メートル = 3,300万円 |
この3,300万円が、路線価ベースの土地の評価額です。ここから、さらに実勢に近づけた評価も確認してみます。
| 基準にする価格 | 計算 | 土地の評価額(仮) |
|---|---|---|
| 路線価をそのまま使う | 20万円×1.00×165平方メートル | 3,300万円 |
| 路線価を0.8で割り戻す | 3,300万円÷0.8 | 約4,125万円 |
| 固定資産税評価額を0.7で割り戻す | 固定資産税評価額2,900万円(仮)÷0.7 | 約4,143万円 |
同じ土地でも、基準によって3,300万円から約4,100万円まで、約800万円の差が出ます。融資の相談では、金融機関がどの価格を基準にしているかを、必ず確認しましょう。
実際の土地では、奥行価格補正のほかに、形がいびつな土地(不整形地)、間口が狭い土地、角地、道路との高低差、私道、セットバックが必要な土地などで、補正や減額が入ります。これらは財産評価基本通達に定められていますが、金融機関は独自の基準を使う場合も多いため、具体的な評価は金融機関に確認してください。
建物の評価額の計算例
建物の積算評価は、一般に「再調達価格 × 残存耐用年数 ÷ 法定耐用年数」で求めます。再調達価格は、同じ建物を新築したときの建築費で、延べ床面積に構造ごとの単価を掛けて出します。単価は、金融機関ごとに決めており、建築着工統計などを参考にする場合もあります。
建物の評価額 = 延べ床面積 × 再調達単価 × (法定耐用年数 − 築年数) ÷ 法定耐用年数
築年数が法定耐用年数を超えている場合は、残存の年数がなくなり、評価額がゼロに近くなるのが原則です(金融機関によって、最低限の評価額を設ける場合もあります)。
法定耐用年数は構造と用途で決まる
国税庁の耐用年数表によれば、住宅用の建物の法定耐用年数は、次のとおりです。
| 構造 | 法定耐用年数(住宅用) |
|---|---|
| 木造 | 22年 |
| 金属造(骨格材の肉厚が3mm以下、軽量鉄骨など) | 19年 |
| 金属造(骨格材の肉厚が3mmを超え4mm以下) | 27年 |
| 金属造(骨格材の肉厚が4mmを超える、重量鉄骨など) | 34年 |
| 鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造 | 47年 |
仮の例:木造アパート(築12年)の場合
| 項目 | 仮の条件・計算 |
|---|---|
| 構造・用途 | 木造2階建の共同住宅(法定耐用年数22年) |
| 延べ床面積 | 200平方メートル |
| 築年数 | 12年 |
| 再調達単価 | 1平方メートル当たり18万円(仮) |
| 再調達価格 | 200平方メートル × 18万円 = 3,600万円 |
| 残存耐用年数 | 22年 − 12年 = 10年(残存率 10÷22) |
| 建物の積算評価額 | 3,600万円 × 10 ÷ 22 = 約1,636万円 |
築12年の木造アパートは、新築時の建築費の約45%に当たる約1,636万円と評価される、という計算です。築年数が進むほど、この金額は小さくなり、法定耐用年数の22年に近づくと、ゼロに近づきます。
仮の例:RC造の一棟マンション(築25年)の場合
構造が変わると、同じ築年数でも建物の評価の残り方が大きく変わります。次は、鉄筋コンクリート造の一棟マンションを想定した仮の例です。
| 項目 | 仮の条件・計算 |
|---|---|
| 構造・用途 | 鉄筋コンクリート造の共同住宅(法定耐用年数47年) |
| 延べ床面積・築年数 | 600平方メートル、築25年 |
| 再調達単価 | 1平方メートル当たり28万円(仮) |
| 再調達価格 | 600平方メートル × 28万円 = 1億6,800万円 |
| 残存耐用年数 | 47年 − 25年 = 22年 |
| 建物の積算評価額 | 1億6,800万円 × 22 ÷ 47 = 約7,864万円 |
| 土地(路線価方式) | 300平方メートル × 30万円 × 補正率1.00 = 9,000万円 |
| 積算評価額(合計) | 約1億6,864万円 |
築25年でも、RC造は建物に約7,864万円の評価が残り、合計に占める割合は約47%です。先の木造アパートは、築12年でも建物の割合が約33%(1,636万円÷4,936万円)でした。構造と築年数の組み合わせを見ると、物件ごとの「担保としての強さ」の違いが分かります。
一方で、RC造は再調達単価が高いぶん、購入価格も高くなりやすい点には注意が必要です。積算評価が高くても、売買価格がそれ以上であれば、評価と価格の差の分は、自己資金で埋めることになります。積算評価額と売買価格の差を、必ず並べて確認しましょう。
土地と建物を合計して融資額の見通しを立てる
土地と建物の評価額を合計したものが、積算評価額です。先の仮の例で、土地の基準別に合計してみます。
| 土地の基準 | 土地 | 建物 | 積算評価額(合計) |
|---|---|---|---|
| 路線価をそのまま使う | 3,300万円 | 約1,636万円 | 約4,936万円 |
| 路線価を0.8で割り戻す | 約4,125万円 | 約1,636万円 | 約5,761万円 |
仮に売買価格が5,500万円だったとすると、路線価ベースの積算評価額(約4,936万円)は売買価格を下回りますが、割り戻した評価額(約5,761万円)は上回ります。金融機関が担保評価額に掛け目をかけて融資額の目安を出す場合、その結果は次のようになります(掛け目は仮定です)。
| 積算評価額 | 掛け目80% | 掛け目90% |
|---|---|---|
| 約4,936万円 | 約3,949万円 | 約4,442万円 |
| 約5,761万円 | 約4,609万円 | 約5,185万円 |
売買価格5,500万円との差額が、自己資金などで用意する必要がある額の目安になります。たとえば、積算評価額4,936万円・掛け目80%なら、5,500万円−3,949万円=約1,551万円です(購入時の諸費用は別)。割り戻した評価額・掛け目90%なら、5,500万円−5,185万円=約315万円と、大きく変わります。
ただし、融資額は積算評価だけで決まりません。借りる人の属性、家賃収入から見た返済の余裕、物件の収益力、既存の借入などを総合して判断されます。積算評価は、融資額の「上限の目安」の一つと考えてください。融資審査で見られる指標は、別の記事で整理したとおりです。
築年数が進むと積算評価はどう変わるか
建物の積算評価は、築年数とともに減っていきます。構造によって減り方が大きく異なります。法定耐用年数に対する残存率を、築10年、20年、30年で比べます。
| 構造(法定耐用年数) | 築10年 | 築20年 | 築30年 |
|---|---|---|---|
| 木造(22年) | 約54.5% | 約9.1% | 0%(耐用年数超過) |
| 軽量鉄骨(19年) | 約47.4% | 0%(耐用年数超過) | 0%(耐用年数超過) |
| 重量鉄骨・肉厚3〜4mm(27年) | 約63.0% | 約25.9% | 0%(耐用年数超過) |
| 重量鉄骨・肉厚4mm超(34年) | 約70.6% | 約41.2% | 約11.8% |
| 鉄筋コンクリート造(47年) | 約78.7% | 約57.4% | 約36.2% |
同じ築年数でも、木造と鉄筋コンクリート造では、残存率に大きな差が出ます。築20年の木造は、積算上の建物価値がほぼなくなる一方、築20年のRC造は、約57%が残ります。
また、同じ再調達価格3,600万円(仮)の建物で、築12年・築17年・築22年と年数が進んだ場合の評価額を比べると、次のとおりです。土地は一定(3,300万円)とします。
| 築年数 | 木造(22年)の建物 | 木造の積算合計 | RC造(47年)の建物 | RC造の積算合計 |
|---|---|---|---|---|
| 築12年 | 約1,636万円 | 約4,936万円 | 約2,681万円 | 約5,981万円 |
| 築17年 | 約818万円 | 約4,118万円 | 約2,298万円 | 約5,598万円 |
| 築22年 | 0円 | 3,300万円 | 約1,915万円 | 約5,215万円 |
木造は、築22年で建物の評価がなくなり、積算評価額は土地分だけになります。購入時点では融資が通っても、数年後に売却するときや、借り換えを検討するときは、同じ評価にならない点に注意が必要です。出口戦略を考えるときは、購入前から、築年数が進んだ後の評価を試算しておきましょう。なお、この表は、RC造の再調達価格を木造と同額とした単純化した例で、実際のRC造の単価は木造より高いのが一般的です。
積算評価が出にくい物件・評価が下がりやすい条件
積算評価は、計算式が単純なぶん、物件の個別事情による減額が入りやすい面もあります。主な例を整理します。
- 築古で法定耐用年数を超えた建物:建物の評価がゼロまたは小さくなり、土地の評価がほぼ全てになる。
- 道路に接していない・接道が不足する土地:建築基準法第43条では、建築物の敷地は原則として幅員4m以上の道路に2m以上接していなければならないとされています。この条件を満たさない土地は、建て替えが制限され、土地の評価が下がります。
- 不整形地、間口の狭い土地、傾斜地:使い勝手が悪い土地は、補正により評価が下がる。
- 借地権付きの物件:所有権の土地と異なり、担保としての評価が低くなることが多い。
- 違反建築・既存不適格の建物:容積率や建ぺい率の超過などがあると、融資の対象外または評価減になる場合がある。
- 地方の物件:路線価が低い地域では、土地の評価が小さくなりやすい。
個別の物件の取扱いは、金融機関ごとに異なります。気になる点があれば、購入の申込みの前に、金融機関に相談してください。
積算評価と収益の見方を合わせて考える
積算評価が高い物件は、担保価値が高く、融資を受けやすい傾向があります。しかし、積算評価が高いことと、収益性が高いことは別です。たとえば、土地が高い都心の物件は、積算評価が高くても、利回りは低くなりやすいという面があります。逆に、積算評価が低くても、家賃収入が安定していて利回りが高い物件もあります。
融資を受けて物件を取得する場合は、積算評価で借入額の上限を見通しつつ、収益面では、家賃収入から運営費と返済額を引いても余裕があるかを確認します。返済の耐久力の確認方法は、別の記事で整理したとおりです。積算評価と収益の両方を見て、無理のない借入額を判断してください。
積算評価を自分で試算する手順
購入を検討する物件について、次の順序で積算評価を試算すると、融資の相談がスムーズに進みます。
- 物件の登記事項証明書や販売図面で、土地の面積(地積)、建物の延べ床面積、構造、築年数を確認する。
- 国税庁の路線価図で、前面道路の路線価を確認する。
- 土地の形や奥行を確認し、奥行価格補正率などの補正を反映して、路線価ベースの土地の評価額を出す。
- 固定資産税評価額(固定資産税の納税通知書や評価証明書で確認)や、地価公示価格・基準地価も参考に、割り戻した評価も計算する。
- 建物の構造から法定耐用年数を調べ、再調達単価を仮置きして、残存耐用年数に基づく建物の評価額を出す。
- 土地と建物を合計し、売買価格と比べる。
- 掛け目を80%〜90%程度に仮定して、融資額の幅を見通す(掛け目は金融機関の内規のため、実際の数字は金融機関に確認する)。
- 築年数が5年、10年進んだ時点の評価も試算し、出口の見通しに反映する。
この試算は、あくまで目安です。実際の評価は金融機関の判断によるため、早めに複数の金融機関に相談し、評価の方法と結果を比較することをおすすめします。
よくある質問
Q. 積算評価は、金融機関が必ず使う方法ですか。
A. いいえ。積算評価を重視する金融機関もあれば、収益還元の評価や、借りる人の属性を重視する金融機関もあります。評価の方法は、金融機関や融資のタイプによって異なります。
Q. 路線価と固定資産税評価額は、どちらを使えばよいですか。
A. 金融機関によって異なります。路線価は国税庁の路線価図、固定資産税評価額は市町村の評価証明書などで確認できます。どちらも公示価格より低い水準に設定されているため、割り戻して使う金融機関もあります。事前に確認するのが確実です。
Q. 築古の木造物件は、積算評価がゼロになるのですか。
A. 建物部分の評価は、法定耐用年数を超えるとゼロに近づくのが原則です。ただし、土地の評価は残ります。建物にも最低限の評価額を設ける金融機関もあります。築古物件の融資の考え方は、別の記事で整理したとおりです。
Q. 積算評価が売買価格を下回ると、融資は受けられませんか。
A. 一概には言えません。積算評価が下回る場合でも、借りる人の属性や物件の収益力、自己資金の状況によっては、融資を受けられることがあります。ただし、融資額が小さくなったり、金利や条件が厳しくなったりする可能性があります。
Q. 積算評価を高くするために、できることはありますか。
A. 物件を選ぶ段階では、法定耐用年数が長い構造(RC造など)や、土地の形が整っている物件が、評価されやすい傾向があります。購入後に評価を上げることは難しいため、購入前の物件選びが重要です。
まとめ
積算評価は、土地と建物を別々に評価して合計する、担保評価の代表的な方法です。この記事のポイントを整理します。
- 土地は、路線価・公示価格・固定資産税評価額などを基準に、補正率を掛けて評価する。公示価格を100とすると、路線価は80程度、固定資産税評価額は70程度。
- 建物は、再調達価格に、法定耐用年数に対する残存年数の割合を掛けて評価する。
- 仮の例では、土地3,300万円と建物約1,636万円で、積算評価額は約4,936万円。土地の基準を割り戻すと、評価額は約5,761万円と大きく変わる。
- 木造は築22年で建物の評価がなくなる一方、RC造は長く評価が残る。築年数が進んだ後の評価も、購入前に試算する。
- 積算評価は、融資額の上限の目安の一つ。収益面での返済の余裕もあわせて判断する。
制度や数値は改正されることがあるため、最終的な判断の前に、国税庁、国土交通省、金融機関、不動産の専門家などに確認してください。
※本記事は一般的な情報の提供を目的としたものであり、特定の投資・融資・税務上の判断を勧めるものではありません。制度や数値は記事作成時点の一般的な内容です。個別の判断は、金融機関・税理士などの専門家にご確認ください。
最終更新:2026年10月
関連記事